♪高橋 翼
「三角形を流星が貫いて、私の心みたいに割れた」
あの瞬間、何かが弾けた。もう自分じゃ止められなかった。気づいたら樋口君の背中に腕を回して、唇を重ねてた。どうしてあんなことをしてしまったんだろうなんて、思っても遅いけどそう思ってしまう。
目の前でどうしようもできない顔をしている樋口君を見ていられなくて、すぐにベッドから降りて短い書き置きだけ残して病室を出てきてしまった。最低だった。私の言い分なんて聞いてくれないだろうけど、本当にどうしても駄目だったんだ。感情だけが独り歩きして、それが爆発してしまった。
くだらない言い訳をだらだら並べるよりはちゃんと謝ろうと思ったけど、いざ面と向かって謝罪の言葉を並べた紙を渡されたら、樋口君はどう思うんだろう。もしかしたら、私が前に読んだ最後まで主人公に救いのない小説みたいなことになるんじゃないかって、発想がどっかへ吹き飛んでしまう。
今回のことも、もちろん私は楽観的に考えたいけど、もし樋口君が私を嫌ったりしたら一気に気分が落ちる。 だから桜の樹の下には屍体が埋まっていると思うし、毒虫に変身しても救いは無いと思う。だから樋口君から逃げている今も、辛くて心が潰れそうで、涙がこぼれるんだ。
せっかく真正面から向き合えたと思ったのに、まだ頭の中では無駄にうだうだと考えてしまってる。冷たい向かい風がとても気持ちよくて、でもこの涙まで凍ってしまいそうな気もしてて、複雑な気持ちになった。
本当に、心の底から思う。
「届いてよ。どんなに悲しい、辛い言葉でもいいから、ちゃんと声で届いて欲しいし声で届けたいよ」
走りながら、誰ともどこへとも無く叫んでみる。心で。
雨が降ってきた。嫌な感じがして立ち止まる。鉛色の雲が、本当に鉛なんじゃないかと思えるくらいに重い色をしていた。樋口君が事故に遭った時も、雨だった。雨の降り始めの独特の匂いがする。その匂いが私を包み込む。
ふざけんな。
憎い。
雨、やめよ。
もう好きなんて言えない。雨なんて。
人は多分、大切な何かを失いかけると、その原因になった何かを嫌いになる。現に私が今こうなっているように。
体力が尽きかけて、道端にあったベンチにへたり込むように座った。肘を膝に乗せ、組んだ手の上に額を乗せた。そして目を閉じる。不意に歌詞が浮かぶ。大好きな、あの歌の歌詞が。
♪触れられないなら せめて面影 残してよ
輝く星の カケラに誓った
あのオリオンを 横切ってまた
会いに来るから きっと待ってて
多分、私以外に「時の方舟」なんて言って通じる人はいないと思うくらいにマイナーな曲。物じゃないけど、宝物って読んでもいい曲。いつか、樋口君にも聞かせてあげたいけど、そんな願いはやっぱり根本から無理だ。
あぁ、どうして私たちにはこんなに大きい障害があるの。なんて嘆いてみても、無駄だって知ってるんだけどさ。
流星が横切って貫いたのは、オリオン座じゃなくて私の心。粉々に砕けて欠片になった。輝いてもない、燃え尽きた心の破片に何を誓うって言うの。
繰り返す自問自答に嫌気がさして、家への道をまた歩き始めた。雨はやまなかったけど、いつも通りに家に帰った。
「三角形を流星が貫いて、私の心みたいに割れた」
あの瞬間、何かが弾けた。もう自分じゃ止められなかった。気づいたら樋口君の背中に腕を回して、唇を重ねてた。どうしてあんなことをしてしまったんだろうなんて、思っても遅いけどそう思ってしまう。
目の前でどうしようもできない顔をしている樋口君を見ていられなくて、すぐにベッドから降りて短い書き置きだけ残して病室を出てきてしまった。最低だった。私の言い分なんて聞いてくれないだろうけど、本当にどうしても駄目だったんだ。感情だけが独り歩きして、それが爆発してしまった。
くだらない言い訳をだらだら並べるよりはちゃんと謝ろうと思ったけど、いざ面と向かって謝罪の言葉を並べた紙を渡されたら、樋口君はどう思うんだろう。もしかしたら、私が前に読んだ最後まで主人公に救いのない小説みたいなことになるんじゃないかって、発想がどっかへ吹き飛んでしまう。
今回のことも、もちろん私は楽観的に考えたいけど、もし樋口君が私を嫌ったりしたら一気に気分が落ちる。 だから桜の樹の下には屍体が埋まっていると思うし、毒虫に変身しても救いは無いと思う。だから樋口君から逃げている今も、辛くて心が潰れそうで、涙がこぼれるんだ。
せっかく真正面から向き合えたと思ったのに、まだ頭の中では無駄にうだうだと考えてしまってる。冷たい向かい風がとても気持ちよくて、でもこの涙まで凍ってしまいそうな気もしてて、複雑な気持ちになった。
本当に、心の底から思う。
「届いてよ。どんなに悲しい、辛い言葉でもいいから、ちゃんと声で届いて欲しいし声で届けたいよ」
走りながら、誰ともどこへとも無く叫んでみる。心で。
雨が降ってきた。嫌な感じがして立ち止まる。鉛色の雲が、本当に鉛なんじゃないかと思えるくらいに重い色をしていた。樋口君が事故に遭った時も、雨だった。雨の降り始めの独特の匂いがする。その匂いが私を包み込む。
ふざけんな。
憎い。
雨、やめよ。
もう好きなんて言えない。雨なんて。
人は多分、大切な何かを失いかけると、その原因になった何かを嫌いになる。現に私が今こうなっているように。
体力が尽きかけて、道端にあったベンチにへたり込むように座った。肘を膝に乗せ、組んだ手の上に額を乗せた。そして目を閉じる。不意に歌詞が浮かぶ。大好きな、あの歌の歌詞が。
♪触れられないなら せめて面影 残してよ
輝く星の カケラに誓った
あのオリオンを 横切ってまた
会いに来るから きっと待ってて
多分、私以外に「時の方舟」なんて言って通じる人はいないと思うくらいにマイナーな曲。物じゃないけど、宝物って読んでもいい曲。いつか、樋口君にも聞かせてあげたいけど、そんな願いはやっぱり根本から無理だ。
あぁ、どうして私たちにはこんなに大きい障害があるの。なんて嘆いてみても、無駄だって知ってるんだけどさ。
流星が横切って貫いたのは、オリオン座じゃなくて私の心。粉々に砕けて欠片になった。輝いてもない、燃え尽きた心の破片に何を誓うって言うの。
繰り返す自問自答に嫌気がさして、家への道をまた歩き始めた。雨はやまなかったけど、いつも通りに家に帰った。