♪side:雪乃原未咲 三月九日 夜

「バカって呼ばれるほど君が好きだった」

フラれてからずっと考えてた。翼ちゃんにあって私にないもの。そんなの考えても無駄だって分かってたのに、存在しないものを探していないと壊れちゃいそうになるから無理に足りないものを見つけようとしてた。
昼間の自分に会って、聞きたい。「その恋は笑えていますか。泣いてはいませんか。泣かないように、誤魔化しては無理に笑っていませんか」なんてさ。カッコつけるわけじゃないけど、どうしても聞かずにはいられないくらい気になっちゃったんだ。私の今までの恋が、だいたいそんな感じだったから、尚更ね。
ただ、忘れてほしいとかいうニュアンスのことは伝えなくて本当に正解だった。言いたかったけど、だって本当は忘れてほしいことなんて一つも無くて、出来れば樋口君の頭ん中とか心が私で埋め尽くされればいいのに。なんてことも思ったりもした。まぁ進路も別々だし、丁度いい区切りだったのかもしれない。
センター試験も前期入学試験もなんとなくで通り抜けて、なんとなくで決まった大学に通って、なんとなく職に就いて。そして、普通に年を取って普通に死んでいく。そういった人生が楽しいわけはないって思ってはいたけど、どんな人生を送ろうと、結局私の道に樋口君の足跡はつかないんだから、変わらない。
「いったいいつになったら、樋口君に会いたくて苦しくて、眠れなくなる夜が来なくなるの?」
 私の心とは正反対の満天の星空に囁いてみるけど、小さな六等星くらいの星の煌めきでその声が潰されてしまう気がして、余計に悲しくなった。
これは、私のせめてもの約束。次に樋口君に会うまでは、涙は流さない。ちゃんと守れるかと言われたら自信なんてない。でも言葉にしておかないと毎日のように泣いてしまう気がして辛いから約束ということにしておきたいんだ。