高校二年生の二月バレンタイン、俺は窮地に立たされている。
『あんたもしかして告白するつもり?』
「……」
『信じられない、男のアンタが? しかもめちゃくちゃバカで不良のあんたが?』
 頭の周りをくるくる飛び回る人魂を無視して部屋のベッドに寝転ぶ。
 もう元の家の感覚は忘れた、この体になってもうすぐ一年、なんでこうなってしまったんだ。
 男の俺が、男に惚れてしまうだと?
『私はもう死んだから何も口出ししないけど、しっかり考えなさいよ』
「わかってるよ! でも決められないんだよ!」
 俺が思うのもあれだがこの体はモテすぎる、学年で1番の美少女なんて言われてるし、勉強もできて運動も出来る。芸術にも長けてる非の打ちどころがないくらいだ。
 だからこそこんな不良の魂は似合わない。
『悩むのはいいけど相手誰にするか決めてるの?』
「もし俺が女子に告白したらどう思う?」
『中身で考えたら普通よ……でも見た目がもうレズだからねぇ』
「だよなぁ……わかってるんだけどなぁ」
 後輩の低身長猫系男子、幼なじみで同じクラスのモテモテ優男、面倒くさがりだけどやる時はやるギャップ生徒会長、親友の兄で気配りの神と言われる生徒会副会長、ずっと真摯に悩みを聞いてくれていた親友の女の子。
『……弟くんはどうなの?』
「お前は自分の弟と付き合えるか?」
『無理ね』
 可愛そうだけどあいつはさすがに候補に入れられない。あいつの気持ちはよく理解しているからこそだ。
「この中で俺が誰とも付き合わないのは?」
『えぇーここまで引っ張っておいてそれは無いわよ、それに自分の心に正直になりなよ……そしたら自分が本当に何を思ってるのか分かるはずだから』
 これが俺の女としての選択、一年前じゃまず考えるはずのなかったおんなとしての生活。

 これは中尾日向の物語、俺と私の物語。

 後悔しない選択をする為にも。ここに至るまでの一年前を振り返らないといけない。