真剣な顔をした
葵君なんて
結婚の挨拶に行った時以来だ。
「とりあえず、
入れてくれねぇか
暑ぃんだよ」
真夏の今は夜になっても暑い。
『あぁ悪い』
家の中は外と違い、
とっても涼しくて気持ちいい。
場所を玄関から
リビングに移った。
「それで、アオはなんで
そんなに真剣な顔してるんだ?」
“夫婦”と呼べるかは別として、
俺が葵君の隣、紗葵君が
大樹君の隣に座った。
『父さんがな
倒れたらしいんだ』
口を開いた葵君から
出た言葉は重い空気を
更に重くするものだった……
「最後に会った時は
ピンピンしてたじゃねぇか」
噛み付くように叫ぶ紗葵君。
『此処最近、
急に暑くなったせいか
熱中症で運ばれたらしいんだ』
梅雨が明け、
急激に暑くなり
新聞やテレビでも
熱中症対策を
呼び掛けている。
『明日、お見舞に行こうよ
お義母さん(おかあさん)
一人じゃ何かと大変だろうから』
提案すると
葵君に頭を撫でられた。
『そうだな、
明日は土曜だし
皆で見舞いに行こう』
翌日、俺たちは
大学病院に来ていた。
お義父さん(おとうさん)が
入院しているのは
三階の四人部屋らしく、
病室の名札には
他の三人の
名前が書いてあった。
「親父大丈夫か?」
元気いい紗葵君の声が 響いた。
『お前なぁ、
病院なんだから大声だすなよ』
それを窘めるように
大樹君が紗葵君を軽く叩いた。
すみませんと
病室の人たちに頭を下げた。
「わざわざ、
見舞いに来る程酷くないのに
何だか悪いな」
『家族なんだから
見舞いに来るのは
当たり前でしょう』
呆れたような顔をして
葵君がため息を吐いた。
「そうですよ、
俺たちは家族なんですよ」
「何だか賑やかですね」
お義父(おとうさん)と
話していると扉の方から
若い女性の声がした。
「羽下さん
煩くてすみません」
『父さん、誰?』
「俺の担当看護師の
羽下優祈さんだ」
歳は二十代後半だろうか?
華奢だが目元は
キリッとした釣り目で
しっかりしてそうな女性だ。
そして、彼女の視線が
葵君を見ていることに気付いた。
ちょっとムッとしたけど
途中から
お義母(おかあさん)が
来たから顔には出さずに
そっと二人から視線を外した。
それから一週間後、
お義父(おとうさん)もよくなり
退院の日が来た。
「あの高沢さん」
彼女はお義父(おとうさん)に
何か聞いてるみたいだ。
「葵、
ちょっとこっちに来い」
何となく
予想はついてたけど
それを見たくなくて
俺は病室を抜け出した。
想定内だし、
彼女が葵君を
見ていたのも気付いていた……
全部わかっていても、
やっぱり、旦那が
告白されてるところなんて
誰だって見たくないだろう。
ましてや、俺たちは
特殊な夫婦関係だ。
葵君が断ると解っていても
わざわざ見たいものじゃない。
『やっと見つけた』
それから五分後、
息を切らした葵君が
中庭に来た。
『探したんだぞ』
俺の前に屈み込み
両手をギュッと握った。
『あの看護師さんは?』
声が上擦ってるのは
自分でもわかった。
『俺が愛してるのは
大海だけだから心配するな』
中庭の木の葉が
風で揺らいだ。
此処が病院だと
いうことも気にせず
左手の指輪と唇にキスをした。
『葵君、大好き』
俺も立ち上がり、
気にせずに抱き着いた。
それを羽下さんが
見ていたとも知らずに……
葵君なんて
結婚の挨拶に行った時以来だ。
「とりあえず、
入れてくれねぇか
暑ぃんだよ」
真夏の今は夜になっても暑い。
『あぁ悪い』
家の中は外と違い、
とっても涼しくて気持ちいい。
場所を玄関から
リビングに移った。
「それで、アオはなんで
そんなに真剣な顔してるんだ?」
“夫婦”と呼べるかは別として、
俺が葵君の隣、紗葵君が
大樹君の隣に座った。
『父さんがな
倒れたらしいんだ』
口を開いた葵君から
出た言葉は重い空気を
更に重くするものだった……
「最後に会った時は
ピンピンしてたじゃねぇか」
噛み付くように叫ぶ紗葵君。
『此処最近、
急に暑くなったせいか
熱中症で運ばれたらしいんだ』
梅雨が明け、
急激に暑くなり
新聞やテレビでも
熱中症対策を
呼び掛けている。
『明日、お見舞に行こうよ
お義母さん(おかあさん)
一人じゃ何かと大変だろうから』
提案すると
葵君に頭を撫でられた。
『そうだな、
明日は土曜だし
皆で見舞いに行こう』
翌日、俺たちは
大学病院に来ていた。
お義父さん(おとうさん)が
入院しているのは
三階の四人部屋らしく、
病室の名札には
他の三人の
名前が書いてあった。
「親父大丈夫か?」
元気いい紗葵君の声が 響いた。
『お前なぁ、
病院なんだから大声だすなよ』
それを窘めるように
大樹君が紗葵君を軽く叩いた。
すみませんと
病室の人たちに頭を下げた。
「わざわざ、
見舞いに来る程酷くないのに
何だか悪いな」
『家族なんだから
見舞いに来るのは
当たり前でしょう』
呆れたような顔をして
葵君がため息を吐いた。
「そうですよ、
俺たちは家族なんですよ」
「何だか賑やかですね」
お義父(おとうさん)と
話していると扉の方から
若い女性の声がした。
「羽下さん
煩くてすみません」
『父さん、誰?』
「俺の担当看護師の
羽下優祈さんだ」
歳は二十代後半だろうか?
華奢だが目元は
キリッとした釣り目で
しっかりしてそうな女性だ。
そして、彼女の視線が
葵君を見ていることに気付いた。
ちょっとムッとしたけど
途中から
お義母(おかあさん)が
来たから顔には出さずに
そっと二人から視線を外した。
それから一週間後、
お義父(おとうさん)もよくなり
退院の日が来た。
「あの高沢さん」
彼女はお義父(おとうさん)に
何か聞いてるみたいだ。
「葵、
ちょっとこっちに来い」
何となく
予想はついてたけど
それを見たくなくて
俺は病室を抜け出した。
想定内だし、
彼女が葵君を
見ていたのも気付いていた……
全部わかっていても、
やっぱり、旦那が
告白されてるところなんて
誰だって見たくないだろう。
ましてや、俺たちは
特殊な夫婦関係だ。
葵君が断ると解っていても
わざわざ見たいものじゃない。
『やっと見つけた』
それから五分後、
息を切らした葵君が
中庭に来た。
『探したんだぞ』
俺の前に屈み込み
両手をギュッと握った。
『あの看護師さんは?』
声が上擦ってるのは
自分でもわかった。
『俺が愛してるのは
大海だけだから心配するな』
中庭の木の葉が
風で揺らいだ。
此処が病院だと
いうことも気にせず
左手の指輪と唇にキスをした。
『葵君、大好き』
俺も立ち上がり、
気にせずに抱き着いた。
それを羽下さんが
見ていたとも知らずに……