此処は俺たち四人が
住んでる高沢邸。

俺の名前は高沢大海
旧姓藤並大海。

〈高沢〉っていうのは
“旦那”の苗字だ。

男なのに何で
苗字が変えられるのかって?

それは俺が
高沢家の戸籍に入ったから。

つまり、戸籍上では
“旦那”ではなく
“兄“ というわけだ。

『大海、夕飯できたぞ』

さっき呼んだのが
旦那の高沢葵。

俺は三歳年上の
旦那が大好きだ。

『はい』

ほら、呼ばれただけで
自然と笑顔でになってしまう。

葵君のもとに向かった。

『葵君』

ドンッと
効果音が付きそうなくらい
思いっ切り抱き着いても
涼しい顔をして俺を
抱き留めてくれた。

身長差が少しだけ恨めしい。

四人揃ったところで
夕飯を食べ始める。

高沢邸では、
よっぽどの事情がなければ
誰か一人欠けていれば
ご飯を食べないのがルールだ。

これを言い出したのは
紗葵君だった。

小さい頃から
両親が留守だった高沢家は
兄の葵君と
何時も二人っきりだったそうだ。

ご飯の用意はして行くが
それを両親と食べる機会は
殆どなかったらしく、
小学校高学年ぐらいになると
料理はいつの間にか、
葵君の担当になっていたらしい。

そうして、ただでさえ
留守がちで帰りの遅かった
高沢家の両親はますます
仕事に没頭し、紗葵君が
中学を卒業したその年、
二人は仕事場近くに
マンションを借りてこの家を
出たのだと前に話してくれた。

俺は葵君と
紗葵君は大樹君と
出会ってから四年、
付き合い始め、
二年の月日が経ち
俺たちはそれぞれの相手と
“結婚”して
高沢邸で一緒に暮らし
始めて一年が経った。

最初は
高沢家の両親に反対された。

特に俺と葵君は
猛反対された……

うちの親も最初は
苦笑いだったけど、
俺が幸福ならいいと
早々に認めてくれたんだ。

二人で高沢家の
両親を説得して
俺が養子になることで
許してもらう形になった。

結婚を反対した
お義母さん(おかあさん)たちに
兄弟二人は激怒した。

今の今まで
ほったらかしだったのに
口出しされる筋合いはないと。

子供の言い分としては
わからなくもない。

藤並家は
ほったらかしどころか
逆に干渉しすぎなくらい
可愛がってもらったから
二人の気持ちは
一般論としてしか
わからないけど。

そこに割って入ったのは
大樹君でその日は
何とか収まった。

紗葵君も俺と同じで
中里家の戸籍に入ったけど
違ったのは中里家の両親が
反対していなかったことだった。

二人に覚悟があって
幸福ならいいと言った
中里家の両親は凄いと
四人で感心してしまったのを
よく覚えている。

三家族の中で
純粋に祝福してくれたのは
中里家だけだった。

何はともあれ、
こうして無事に
“結婚”できてよかったと思う。

四年前の俺たちなら
きっと、“結婚”するなんて
考えてもいなかっただろうなぁ。

四人で夕飯を囲みながら
幸福を噛み締めて、
温かい気持ちになった。

この幸福が永遠に
続きますようにと
心の中で祈った。