そうだ、恩返しで思い出した。私の分の恩返しをして貰わないと。
「ネコモリサマ。私は隠れ家を見つけました。約束通り、翠を人間に戻して下さい」
「また、その話? お前さんも、しつこいのう」
「しつこいって、妹の事を心配するのは当たり前じゃないですか」
 ネコモリサマの無責任な発言に、思わず語気が強くなる。
「じゃが、その妹を猫にするよう望んのは、美寿穂じゃろが」
「だから、それは前にも言ったように一時の気の迷いなんです。早く、翠を人間に戻
して下さい」
「しかし、当人はどう思っとるかの。案外、猫になったのを楽しんどりゃせんか?」
「何言ってるんですが、そんな筈ないでしょ」
 だんだん、ネコモリサマの発言に腹が立ってきた。
「でも、やっぱり当人に確認してみないと、分らんじゃろ」
「今の翠は猫なんです! そんなこと聞いたって答えられないでしょ」
「…ふーん。そうかのう」
 ネコモリサマが妙な顔でニヤついてみせる。

 ハッとして、私は慌てて翠の姿を探しはじめる。
 何処に行ったのだろう。辺りに翠の姿がない。
「翠。翠。何処にいったの」
 声を出して呼んでみる。
 反応は無い。
 もう一度、目を凝らして辺りを見渡す。
 見つからない。
 しまった。真っ白の世界の中に真っ白な猫。紛れ込んだら見つけるのは大変だ。
 もっと注意しておくべきだった。