「さっきから、ここにおるよ」
 目の前の空間が風に吹かれたカーテンのように揺らぐ。空中に裂け目が出来、そこ
からネコモリサマが姿を現した。
「部外者が居るようだから、姿を見せるのを躊躇っとたんじゃ。そいつ、誰?」
 ネコモリサマが、顎で三笠君を指す。
「彼は三笠君。私の…、その…、友達です。隠れ家探しを手伝って貰ったんです」
 慌ててネコモリサマに三笠君を紹介する。
「はじめまして、三笠です」
 三笠君がネコモリサマに頭を下げる。

 ネコモリサマが三笠君の足元を嗅ぎ回るように歩き回る。
「なるほどのう。こいつが此処を見つけたのか。確かに、頭の良さげな匂いがする」
「匂い? 匂いがするんですか?」と三笠君。
「そうじゃよ。頭の回転の早い人間は同じような匂いがするんじゃよ。昔、サシチと
いう切れ者がおったが、そいつと同じ匂いがする」
「サシチって、仁連の佐七さんのことですか?」
「サシチを知っとるのか? ほんにサシチは切れ者じゃった。サシチへの恩返しで、
随分と願いを叶えさせられたもんじゃ……。まぁ、それはそれで面白かったがのう」
 ネコモリサマが遠い目になる。ネコモリサマ、三笠を気に入ってくれたのかな? 
部外者だから出て行けとかなったら、心細いもの。

「そのサシチが町中に新しい社を作ったお陰で、こっちにお供物が上がらなくなり、
有難迷惑じゃ。じゃから、カモンへの恩返しからは、願い事は三つと決めたのじゃ」
 ネコモリサマが独り言のように呟く。
 カモンさん? 知らない名だ。柿右衛門とか文左衛門と似た類の名前かな?
 それとも、苗字? 佐門とか多門とかみたいな?
 てか、ネコモリサマ、また誰かに助けられたのね。