猫になったイモウト

 猫守神社の反対側は墳丘が大きく崩れていて、欅の木の太い根が露になっている。
 その根が幾重にも重なる所に向かって、翠が猫座りしている。
 翠の視線の先を見ると、根と根の間に何やら木の室ような暗い穴がある。
 あれ? おかしいな? さっきまで、こんな穴は無かったはず。

 私の様子を不審に思ったのか、三笠君がやってきた。
「どうしたの?」
「あれ」と、私は翠の視線の先の穴を指さす。「あの穴、さっきまでは無かった」
「確かに。さっき見たときは無かった…」三笠君も不思議がる。

「そうか、分かった」暫く思案していた三笠君が急に声を上げる。
「ネコモリサマの隠れ家だから、猫でないと見つけられないんだ」
 我が意を得たり、とばかりに翠が頷く。
 そして、スルリと身をひるがえすと、翠はその穴の中に飛び込んでいった。
「えっ! 待って」
 私も、翠に続いてその穴に飛び込む。

 ヒャー!!
 暗い穴に飛び込んだ筈なのに、中は真っ白だった。
 視界に入るものは全て白なので、上も下も、左右も分からない。
 だけど、自分が落っこちているという感覚だけはある。
 心臓が浮き上がるような感覚。
 どれでけのスピードで落ちているのか、見当がつかない。
 えー!? このまま地面に激突したら…。

 そう思った瞬間、私はお尻から地面に落っこちた。
「イッター」
 お尻をさすりながら、辺りの様子を確かめる。
 白い大地、白い空、風になびく白い草原。
 そこは、まさしくネコモリサマの世界だった。