「ところが、化け狸の妖術に翻弄され、ソウベエさんの妖怪退治も上手く進まない。
そうこうするうちに、暴れ馬に轢かれそうになった猫をソウベエさんが助けたのね」
 あっ! と声を出して私と三笠君が顔を見合わせる。
 きっと、その猫はネコモリサマだ。どんだけ長生きなのネコモリサマ。
 てか、いっつも何かに轢かれそうになるのね、ネコモリサマ。
「ん? なんか、あった?」
「何でもない。話を続けて」
「じゃあ、続きね。ソウベエさんの助けた猫は不思議な力が使えたらしく、その力で
件の化け狸を追い出す事が出来た。近隣の者は、猫に大層感謝し、神社を建てて篤く
奉った。ソウベエさんも村の器量良しを娶って帰農した。この人がうちの先祖だね、
きっと」
 なるほど、これで猯穴に猫守神社が有るのは確実になった。
 アーちゃんに電話のお礼を言って、再び猯穴に急ぐ。

 そこから、更に自転車で十分ほど走る。
 田園風景の向かうに、鬱蒼とした木々に覆われた小山が現れる。
 差し渡し二~三百メートル、高さは三~四十メートルもあるだろうか。
 三笠君が自転車を降りて額の汗を拭う。私も荷台から降りて三笠君の隣に立つ。
「これが、猯穴古墳? かなり大きいのね」
「いや、これ全部が古墳じゃないよ、台地の上に古墳が造られただ。すまないけど、
ここからは歩きになる」
 三笠くんが先にたって歩き出す。
 私は、自転車の前かごに収まっていた翠を抱き抱えて三笠君に続く。