「ミドリが? 家出? そういえば、今朝早く、出てったわね」
 朝食の味噌汁を作りながら、お母さんが事もなげに言う。
「お母さん。翠が出てくとこ見たの?」
「見たっていうか、玄関のとこで、出たそうにしてたから、出してあげたわよ」

 な、なんてことを。
 どこまでノンビリしてんだ、この人。
 幾らなんでも無関心過ぎる!
「翠、様子が変じゃなかった? 何か言ってなかった?」
「ミドリが? ミドリが何か言うはずないじゃない…」
 お母さんが、「何言ってるの、この子は」と言いたそうな顔で私を見る。
 私はわたしで、「何言ってるの、お母さん」という思いで、お母さんを睨む。

 だめだ、何だか知らないけど、今日のお母さんは変だ。
 これじゃ、埒が明かない。

 私は、訴えの矛先をリビングにいるお父さんに替える。
 お父さんは、ソファに腰かけて悠長に新聞なんか読んでいる。
 こんなに子供に無関心だったっけ、この二人?
 声をかける前から、嫌な予感がする。

「お父さん、翠が家出した!」
「家出? どっか、その辺に居るんじゃないの?」
 お父さん、新聞から目を離そうとさえしない。見てるのもスポーツ欄だし。
 本当にどうなってるんだ。
 二人とも、私の話をまともに取合ってくれない。