ブブブブブ、ブブブブブ、ブブブブブ。
 仁連和菓子店を出てから二十分程経った頃、スナホが震えた。
 夢心地から覚めて、スマホを見る。
 アーちゃんからの着信だった。

「もしもし。どうしたの、アーちゃん」
「美寿穂。三笠君、近くにいるなら代わって」
 三笠君が自転車を留めて私のスマホを受け取る。
 私も自転車の荷台から下り、三笠君の隣でスマホからの声に耳を傾ける。
「電話代わりました。三笠です」
「彩愛です。早速だけど、さっき聞かれた猫守神社の場所、マリアナじゃあなくて、
猯穴だった。町の北の方に猯穴古墳てのがあるんだけど、その辺りにある筈」
「やっぱり、そうか。ありがとう。今、そこに向かってるんだ」
「そうなの!? 凄いな。良く分かったね」
「奥寺んの方は、どうやって分かったの?」
「うちのヒイお爺ちゃんが学校の先生だったらしくて、この近隣の名所旧跡を調べて
本にしたらしいんだ。今日、蔵の虫干ししてて、偶然その本を見つけたの」
「なるほど…。もしかして、その本に猫守神社の伝承とか書かれてないかな?」
「ちょっと待ってね。今、調べる」
 一旦、会話が途切れる。

 暫くして、アーちゃんからの応答。
「あったよ。読むね」
 何かしら、隠れ家探しのヒントが聞けるかもしれない。
「寛文年間。今から三百五十年位前だね。猯穴の地に化け狸が住み着き、近在の者が
難儀していた。そこに通り掛かったのが、旅の浪人で奥寺…うーん? 何て読むんだ
これ…? ソウ…ベ…エ…かな? その人が化け狸退治を買って出たらしいの」
 化け狸? 話が意外な方向に向かった。