正徳五年。というから、今から三百年ほど前。江戸時代、七代将軍家継の時代。
 仁連佐七《にれのさしち》という商人があった。
 旅の途中で猫守神社に差し掛かったとき、暴れ馬に撥ねられそうな猫を助けた。
 その晩、佐七の夢枕に件の猫が現れ、助けて貰った恩返しに願いを叶えると言う。
 佐七は知恵者だったらしく、猫と旅を続けるうち、猫の叶える願いのお蔭で大いに
財をなした。
 その後、佐七と猫が再び猫守神社を訪れると、猫は何処へともなく消え去った。
 佐七は猫への感謝を忘れず、この地に新しく猫守神社を建てて、篤く奉った。
 
 *****

「その話、私のとそっくり…」
「だろ。だから、ここに何かの手掛かりがあるんじゃないかと思う」
 私の心が軽くなった。
 ほんの少しだけ、光明が差した気がする。

 ニャァ。
 抱きかかえていた翠が体をモゾモゾと動かした。
 翠も何かを感じているのだろうか。
「どうしたの」と声をかけると、翠は私の胸から飛び降りて、祠の前に座る。
 背筋を伸ばしているその姿は、猫盛神社に対して何かを訴えているように見える。
「翠も…何か感じてるんだね…」