「それにこの猫《こ》も可愛い。なんて名前なの、この猫」
素子さんが、翠の方に関心を移す。

「ミドリです。濱野翠」
「あー。目にグリーンが入ってるから、ミドリなのね。可愛い!!」
「いえ! 翡翠《かわせみ》って漢字の下のほうの翠です!」
 と強く否定する。
 あれっ? 私なんで素子さんと張り合ってるんだろう。

 素子さんは一瞬驚いた顔になったが、直ぐに何かに納得したように。
「あー、なるほどね。分かった分かった」
 と言って私と三笠くんの顔を見比べてから
「あー、残念。三笠くん、私のお婿さん候補だったんだけどな」
 と笑う。
「なに言ってるんですか」と三笠くんが苦笑い。
 素子さんは、それを聞き流すようにして、私に向かい真顔で
「ガンバ!」と声をかけた。
 いったい何を頑張れっていうのだろうか?
 
「ところで、ご注文は何になさいます?。こちらで食べていかれますよね」
 と素子さんが商人の顔になる。
「それがー。今日来たのは、猫守神社を見せて貰うためなんです」
「なーんだ、そうなの。いいよ。場所は知ってるよね。私は店番があるから、二人で
行ってくれる」
「はい。じゃぁ、失礼して」

 三笠くんが手招きするので、ついていく。
 喫茶室の奥の引き戸を開けると、小さな和風庭園がある。
 そこにも椅子とテーブルが置いてあり、お茶が愉しめるようになっている。
 三笠くんは、椅子を素通りして、庭園の奥に進むと木の茂みの下で佇んでいる。
 私が三笠くんの隣に並ぶと
「これが、猫守神社」
 と三笠くんが囁いた。