「そこに行ってみよう。昨日、濱野さんが事故に遭いそうになった場所の近くだよ」
 えーっ! あそこに…。
 私が三笠くんに醜態を晒した場所だ、正直あんまり行きたくない…。
「あっ、そうか。あの……、僕は昨日のこと、全然気にしてないから。その、何とも
思ってないから」
 いや、気にしてるのは私だし、何とも思ってるのも私だし。
 でも、また三笠くんがアセアセしてる。なんでだろ。

「とにかく行こう。早く翠ちゃんを元に戻さなくちゃ」
 そうだ、私のことなんか、どうでも良い。
 翠を抱えて、うん、と言って立ち上がる。

「じゃぁ、これで行こう」と言って三笠くんが、自転車のサドルをバンバンと叩く。
 えーと…。
 次に何をして良いか分からず、私が躊躇していると
「翠ちゃんはこっちだね」
 と言いながら、私の腕の中から翠をすくいあげ、自転車の前かごに入れた。
 翠は嫌がる様子も見せずに、前かごの中できちんと猫座りしている。

 三笠君は、前かごに入っていてリュックを体の前側に着け、
「ここに乗って」
 と自転車の荷台を指差した。

―私と二人乗りなんかして良いの? 三笠君には彼女がいるんじゃ―
 と躊躇していると、三笠君が
「…僕の運転じゃ心配?」
 と聴いた。
「いいえ」
と答えて、横座りで荷台に納まる。

「じゃぁ、行くよ」
 自転車が走り出す。
 私は三笠君とくっつかないように、体を小さくする。
 けれど、三笠君が体を動かすたびに、三笠君の背中と私の腕が触れてしまう。
―なんだか、三笠君の彼女さんに悪いなぁ―
 と思いながらも、私はその背中の温もりを、心地よく感じていた。