三笠くんが、私の次の言葉を待っている。
 その視線が痛い。
「あの…。とても、信じて貰えないと思います…」
 と猫の足音よりも小さい声で呟く。

「えーと。どんな不思議な話か知らないけど、濱野さんの言うことなら僕は信じる。
だって、濱野さんが作り話をするような人じゃないのは、普段の様子をよく見てれば
分かるもの」

―普段の様子をよく見てる? それってどういう―
 場違いの疑問が頭をよぎる。
 その疑念が私の顔に滲み出たのか、
「とにかく、濱野さんの知ってる事を話してくれないか。信じる信じないは後から、
考えよう」
 と、三笠くんが取り繕うように先を促した。

 そうだ。とにかく、三笠君と出会ったことが切っ掛けで、私は翠と再会できた。
 三笠君に、翠の秘密を話すことで、事態が良いほうに流れてくれるんじゃないか。
 そんな気がする。

 私と三笠君は、並んでベンチに座る。
 私の膝の上には、猫のミドリがおとなしく丸まっている。
 私はミドリの頭を撫でつつ、昨日からの一連の不思議を三笠君に語って聞かせた。
 もちろん、私が三笠君に振られたと思った下りは、伏せておいたけれど。