「ミドリ、ミドリー」
 私の目から、本物の涙が溢れ出す。
「翠。翠。お姉ちゃんだよ。ごめんね、ごめんね。お姉ちゃんが悪かった。だから、
もうどこにも行かないで。お姉ちゃんが、きっと人間に戻してあげるからね」
 翠と頬ずりを繰り返す。翠の顔が私の涙で濡れていく。
 翠はそれを嫌がる様子もなく、ミーと子猫のような鳴き声を上げる。

「その猫、濱野さんの方を心配そうに見てたんだ。それで、もしやと思って」
 顔を上げて、三笠くんの方を見る。
―ありがとう―
 そう言おうと思ったけど、言葉にならない。
 見つめあう、私と三笠君。
 朝の公園で、二人と猫一匹が不思議な静止画を作る。
 翠と再会できた安心感から、私の体から全部の力が揮発してしまったようだ。
 何も考えることもできず、私は放心したように涙を流しつづけた。

 *****

 どれくらい時間が経ったろうか。
 それまで私と翠の様子を辛抱強く見守っていた三笠くんが口を開く。
「濱野さん。聞きたいことがあるんだけど…」
 その言葉に、ハッとして我に返る。
 顔を上げると、三笠くんの真剣な眼差しとぶつかった。

「濱野さん、自分が猫のお姉さんだ、みたいなこと言ってたよね。それに、その猫を
人間に戻してあげる、とも…」
 さっきの発言を三笠くんに聞かれてたんだ。
 あぁ、どうしよう。どうやって、翠のことを説明しよう。
 とても、信じて貰えそうにない。