そうこうするうちに、時計の針が七時を回る。
 一階で、両親が起きだした気配がする。

 翠、今日の家出は諦めたのかな?
 それとも、案に反して、既に暗いうちに家を出た? 
 私は慌ててベッドから立ち上がる。
 フローリングの冷たさが、頭まで突き抜ける。
 音を立てねように気をつけながら、自室を出る。

 翠の部屋のドアの前に立ち、中の気配を伺う。
 静かだ。コトリとも音がしない。

―本当にもう家を出たの?―
 心臓を鷲掴みされたように、体が震えあがる。
「翠。お姉ちゃんだよ。入るよ」
 そう言って、翠の部屋のドアを開ける。

 次の瞬間、時間が氷ついたように、私は固まった。
 部屋の中に翠は居なかった。
 それどころか、そこは翠の部屋ですらなかった。