私は驚いて立ち上がる。
「ミドリなの?」
 白猫の方に一歩踏み出す。
 その猫は、プイと顔をそむけると、私たちから離れるように歩き出す。
「ミ、ミドリ…」
 白猫は、私たちの方を何度か振り返りながら、歩き続ける。
 違ったのか?
 差し述べた腕を、力なく落とす。

「濱野さん、濱野さん」
 三笠くんが私の肩をトントンとたたく。
 振り向くと。
「濱野さん。少し、痛がってみせてくれない」
 えっ? なんのこと?
「膝の傷が痛むフリをしてみて、早く」

 三笠くんに言われるまま、しゃがみ込んで膝の辺りを手で押さえ
「イタタタタ!」
 と声をだす。

 白猫が歩みを止めて、こちらを振り返る。
 白猫と私、四つの目が無言の視線をぶつけ合う。
「濱野さん。濱野さん。今度は、大げさに泣き真似してくれない」
 私はすぐさま両の掌で顔を多い。
 うえぇーん。と大きな声で泣きまねを始めた。
 白猫が私たちの方に寄ってくるのが、指の間から見て取れる。
 私の足元に来た猫が、ニャァーと鳴いて鼻先を摺り寄せてくる。

「ミドリなの?」
 ニャァーと応える。
 猫を抱き上げ、両腕のなかで抱きしめる。
 ミドリが私の首に前脚を回す。その体温が温かい。