三笠くんに促されて、もう一度ベンチに座る。
 私が涙を流し続けるあいだ、三笠くんは傍らに立っている。
 私が落ち着くのを待っていてくれているんだ。

 翠を一緒に探してくれる。
 その申し出は嬉しいが、一方でこんな変なことに三笠くんを巻き込んで仕舞うこと
には引け目を感じる。
 というか、とても信じて貰えないだろう。妹が猫になったなんて話。
 私の心は再び暗くなり、涙も冷たくなっていく。

 暫くなって、私も漸く心を落ち着かせることができた。
 涙も収まってくれている。
 傷絆のお礼を言って、この場を立ち去ろう。
 そう決心して顔を上げた。
 三笠くんが私を見つめる視線とぶつかる。

 私が口を開こうとすると
「とても、大切なものなんだね。濱野さんが探しているものって」
 三笠くんが被るように声をかけてくる。
「…でも」と躊躇すると
「二人で探したほうがいいって、僕にも探させてよ」
 三笠くんの優しい言葉で、また泣きそうになる。ダメだ、こんなじゃ。
 とにかく、ミドリを見つけるのが大事だ。恥ずかしいとか言っていられない。

「ありがとうございます。宜しくお願いします」と返事をする。
「こっちこそ宜しく。って、濱野さん。敬語じゃなくて、普通に話さない? なんか
窮屈だよ、話してて」
「で、でも。三笠君と、あんまり話したことないし……」
「ん? 一年のとき文化祭の実行委員、一緒にやったじゃないか。忘れちゃった?」
「いえ…。そんなことは…」

―忘れる筈がない。その時から、ずっと三笠くんを好きなんだからー
「じゃぁ、いまからはタメ口で…」
「はい。……うん」
 思いもよらず、三笠くんの心に近づけた気がした。
 雨降りの私の気持ちの中に、少しだけ日が差したように感じる。

「…で、濱野さんの探してるものって何?」
「そ、それが…。猫なの…」