「すいません。大丈夫ですか? あっ」
 と自転車の主の声。

「す、すみません。探し物に気をとられてて…」
 謝りながら、立ち上がろうとして、左膝に痛みが走った。
 転んだ拍子に擦りむいてしまったようだ。少し、血が滲んでいる。

 よろけながら立ち上がり、顔をあげて自転車の主の顔を見る。
「えっ!? 三笠くん…」
 な、なんで三笠くんが。
 昨日に続いて、二日連続でこんな醜態さらすなんて…。
 と、思う間もなく。顔が燃えるように熱くなってくる。
 うわぁ、いま私の顔、リンゴ並みに赤くなってるよ、きっと。
「ほんと、すみませんでした」
 三笠くんに背をむけ、その場を立ち去ろうとする。

「待ってよ、濱野さん。怪我してるじゃないか」
 いきなり右手首を掴まれて、引き止められた。
 三笠くんの手が熱い。
 私の顔が強力な赤外線を発し始める。
 何をしていいか分からなくなった。
 黙ったまま、三笠くんに背をむけて立ちつくすしかない私。
「あそこの公園のベンチで手当てしよう。ぼく、傷絆《きずばん》もってるんだ」
 三笠くんは私の手を放すと、自転車を押しながら、先にたって歩いていく。

 恥ずかしくて、ここから逃げ出したいくらいだ。
 けど、昨日のように無言で立ち去ったら、あとで後悔することになる。
 私は、三笠くんのあとに付いていくことにした。 恥ずかしくて、ここから逃げ出したいくらいだ。
 けど、昨日のように無言で立ち去ったら、あとで後悔することになる。
 私は、三笠くんのあとに付いていくことにした。