さて、家を出てはみたけれど、どうやってミドリを探そうか。
 いきなり、途方にくれてしまう。

 妹の翠が家出したのなら、向かう先はだいたい見当が付いている。
 従姉の咲穂里《さほり》姉ちゃんの所だ。
 咲穂里姉ちゃんは一人暮らしだし、翠には甘甘だから、暫く泊まってけとか言うに
違いない。
 でも、咲穂里姉ちゃんの所は電車で30分はかかる。
 猫では電車に乗れないし、歩いてはとても行けそうもない。
 そうなると、ミドリはどこを目指しているのだろう。
 猫になったのだから、当てもなく彷徨っているのかもしれない。

 とにかく、何かしないわけにはいかない。
 家の近くから、シラミつぶしに探していこう。
 今までの経験からして、猫が車の行き交う大通りを闊歩する図は想像できない。
 狭い路地の奥、人気のない駐輪場、空き地。
 そんな人目の無いところに屯しているのが、私の猫に対する印象だ。
 馴れ馴れしく他所の家に上がりこんで、餌を頂戴する猫もいるのだろうが、ミドリ
ならそんな事はしなと思う。全然、根拠は無いけれど…。

 自宅の周辺を探し回る。
 細身の白猫。毛は短め、尻尾は長め。目は黄とグリーン。
 ミドリのイメージを思い浮かべながら探す。

 あっ、白猫。…でも、体の反対側に黒ブチがあった。
 あっ、…とあれは太りすぎ。
 あの猫は、毛足が長いから別な種類の猫だ。

 むむむ。細身のしろねこ。もしやっ。
 と、おもって近くによってみたら、目の色が違った。それに顔が間延びしている。
 やはり、簡単には見つからない。
 それに、ミドリのイメージばかり思い描いていると、翠の事を忘れそうになる。
「翠は妹。翠は妹」と唱えながら、猫のミドリ探し続ける。

 だんだんと不安になってくる。
 自分は全く見当違いの場所を探しているのではないか。
 こうしている間にも、ミドリはどんどん遠くへ行っているのではないか。

 このままミドリが見つからなかったら。
 ミドリが帰って来なかったら。
 そう、想像すると目頭が熱くなってくる。涙で視界が霞んでくる。

 袋小路の路地を探し終え、路地を見返りながら表通りに出ようとしたときだった。

 キーッ。
 突然、横から現れた自転車に驚き、私はその場に転んでしまった。