お母さんを抱きしめながら、私は出来るだけ平静さを装い、
「ミドリって、どんな猫だっけ」
 と訊いてみた。
「どんな猫って、ミドリはミドリでしょ。覚えてないの?」
「それが…、居なくなったら、思い出せなくなっちゃって…」
「あんなに仲が良かったのに?」
「いいからぁ。早く教えて」
「そうねぇ。細身の白猫で、毛は短め、尻尾は長め、目は黄色で瞳の周りがグリーン
ぽくなってた」

 私の頭の中に、ミドリのイメージが鮮やかに蘇る。
 寝床でくつろぐミドリ、餌をねだるミドリ、足に纏わりつくミドリ。
 そうだ、ミドリは華奢で繊細な、まるでお姫様みたいな猫だった。

 はっ、いけない。
 猫のミドリを強くイメージすると、翠の方を忘れてしまう。

「ありがとう。お母さん。きっと、きっと、翠を連れて戻るからね」
 私は、そう言い残して、ダイニングを後にする。

 私は、翠を取り戻す。かならず。何に代えても。
 そう誓って、家をでた。