私の声に、猫が顔をしかめる。
「そう大きな声を出さんと…。これは擬態じゃ。本物の猫は喋らんじゃろうが」
「ギ、ギタイって何?」
「まあ、長くなるから説明は割愛じゃ。で…、娘。名は何という?」

 猫が喋ってるなんて。何これ。
 私、夢を見てるの?
 もう一度、時計を見る。午前三時。
 確かに、普通なら夢を見ていて可笑しくない時間だ。

「娘。名を早う言わんか」
 猫に催促され
「美寿穂。濱野美寿穂です」
 と答える。
「ミズホね。ミズホ、ミズホ」
 と猫が私の名前を唱える。

「あのぉ。ネ、ネコさん。…で良いのかな? ネコさん。何者?」
「だ~か~ら~、猫は擬態と言っておろうが。それに、儂の名前は気にせんでええ。
どうせ忘れるから」
 どうせ忘れる?
 いよいよ、夢を見ている公算が強くなってきた。

「ところで、ミズホ。今日は、よくぞ儂の命を助けてくれた。礼を言うぞ」
 ええ。なに言い出してるの。私、猫を助けた覚えないけど。
「あのぉ。私、身に覚えがないんですけど」
「覚えとらんの? あの自動車たらいう、鉄の塊から儂を守ってくれたじゃろうが」
「あー。あのときの……」

 昨日、私が考え事してて自動車に轢かれそうになった時、隣で猫がノびてたっけ。
 そういえば、髭があるように見えて、偉そうな顔の猫だった。
 なるほどね。いよいよ、これは夢なんだ。あの時の印象が強く残っていて、こんな
夢を見るんだ。
 でも、どうせだったら、猫じゃなくて三笠君の方が出てくれりゃ良いのに。