「止めてったら、翠…。みどり…。…みど」
 ハッとして、私はベッドから飛び起きた。

 ドタッ。
 何かがベッドから落ちた。

 私は、ベッドの周りを見回す。
 翠の姿は見当たらない。

「イッタイのう。起きるのなら、そう言うてくれぃ」
 猫の鳴くような声が、ベッドのしたから聞こえる。

 体を捩じって覗き込むと、前足を舐めながら私を睨む猫と目があった。

 ええっ?
 いま喋ったの、この猫?

 窓のそとは、まだ暗い。
 時計をみると、午前三時。
 起きぬけのせいなのか、事態がよく呑み込めない。

 ベッドの上に猫が飛び乗ってきた。
 太った白黒のブチ猫だ。
 顔は黒くて、鼻の下だけ白い。

「娘。名は何という?」
 また、猫の鳴くような声。

 ん?
 首を捩じって、声の主の居場所を探す。
 誰も居ない。なんだ?

「儂じゃよ、儂」
 ベッドの上の猫が口を動かす。
「えっ! えぇっー! 猫が…喋ってる!!」