「翠! あなた、私のシューアイス食べたでしょ!」
「お姉ちゃんの? でも、私は、二個入の残ってた方を食べたんだよ」
「冷凍庫のシューアイスは私のなの。お母さんが買ってきたシュークリームは冷蔵庫
のなか」
「えっ!? そうなの。メンゴ、メンゴ」

 なにその軽いノリ。ちょっとカチンとくる。
「ちゃんと謝りなさいよ!」
 と声が大きくなる。
「そりゃ、謝るけどぉ……。お姉ちゃんが、こっそり一人でシューアイス食べようと
するのが悪いんだからね」
「自分のお金で買ったものを、一人で食べるののどこが悪いのよ!」
「はいはい。わかりました…」といったあと、謝罪の言葉を口にすると思いきや
「そんなに大事なら名前でも書いておけばいいのに…」と小さい声で付け足した。

 なんだ、この子は。自分が間違ったのに、謝りもせずに、却って私を悪者にする。
 頭に血が上っていく。

 思えば。私は人前で怒ることはあまりない。ましてや、翠に対して怒ったことなど
殆どない。だから、翠は私の怒りの沸騰点を、見誤っていた。
 気圧が違えば沸騰点が上下するように、私の怒りの沸騰点も、今日に限って違って
いた。
 普段の気の優しい私しか知らない翠は、知らぬ間に超えてはならない一線を越えて
いた。