冷凍室にあるはずの、私のシューアイスがない。
 洋菓子屋のきれいな白い箱に入っていた筈なのに。

「お母さん。私のシューアイス知らない」
「シュークリームなら冷蔵庫に入ってるでしょ」
「そうじゃなくて、冷凍室に入れといた私のシューアイス」

「シューアイス?」
 果実酒の瓶と睨めっこしていたお母さんが、顔を上げる。
「あれ、美寿穂のだったの」
「限定品だったんよ。今日たべようと思って、イチゴ味の方を残しといたのに」

 どれどれと言って、お母さんが腰を上げる。
 冷凍室の中身を穿り返す。
「ないねぇ。お昼には見た気がするんだけど…」
 冷凍室のトレイを戻し、今度は冷蔵室のドアを開ける。
 中には、ぎっちり詰め込まれた食材の数々。
 その向こうに、シュークリームが四つ隠れていた。
「あー、分かった。翠が間違えて食べたんだ。シュークリームが見えなくて…」

 えーっ。すっごい悲劇。イチゴシュー食べるの楽しみにしてたのに。なんて日だ。
 キッチンのリサイクルボックスには、確かにシューアイスの白い箱が捨ててある。

 いくら間違えたからって、文句の一言でも言わないと腹の虫が収まらない。
 そんな気持ちのまま、翠の部屋のドアを開けた。
 それが、いけなかった。
 そんなマイナスの気持ちのままで、翠の前に立つべきではなかったんだ。