猫になったイモウト

 はぁ。
 長女は辛い。
 嫌な事があっても、下の子の前では平気な顔をしてなくちゃいけない。
 泣きたい事があっても、我慢しなくちゃいけない。
 下の子は良いよな。暢気でいられて。

「美寿穂。翠。オヤツよー」
 階下から、お母さんの呼ぶ声。
 お母さん、きっと翠が帰ってくるの待ってたんだろう。

「ハーイ」
 隣の部屋から、元気な返事とともに翠が飛び出していくのが分かる。
 はぁっ。
 私は返事替りに、溜め息を吐き出した。
 なんか、家族と顔を合わせたくない。
 造り笑顔を作らなくちゃならないと思うと辛い。

 机に突っ伏したまま、時間が過ぎてゆく。
「美寿穂。何してんの! 早く、おりてらっしゃい。翠はオヤツ食べちゃったよ」
 もう、やだなぁ。怒られるは、いっつも私ばっかりだ。
 翠は、要領いいもんなぁ。

 浮かない気分で階段を降り、逃げ出したい気分でダイニングのドアを開ける。
 せっかく笑い顔の仮面を用意したのに、中には誰もいなかった。
 翠は、入れ代わりに二階に戻ったのだろう。

 母はというと…。
 キッチンの地下収納に収めてある自家製果実酒の瓶を、出し入れしている。
「手が離せないから、冷蔵庫にあるシュークリーム、食べといて」

―えぇ!? オヤツって、シュークリームだったの。なんて間が悪い―
 と心のなかで呟く。
 私、シュークリームなら、昨日自分で買ってきてあるんだよね。
 それも個数限定のシューアイス。
 昨日の下校時に、わざわざ自宅と反対方向の洋菓子屋に足を運んで買ってきた。
 しかも、アイスが融けないように、家まで走って帰ってきたんだ。

 二個入りなので、昨日はバニラ味を食べ、好物のイチゴ味は今日に残しておいた。
 お母さんには悪いけど、そんじょそこらのシュークリームとは比べられません。

 私は、自分のシューアイスを食べるために、冷凍室のトレイを引き出した。
「あれ?」