「ねえ、ねえ。もっと詳しく聞きたいでしょ」
 ひね曲がった笑い顔の百合華と朱美が、話を続けようとする。
「聞きたくないってば」
 と撥ね付ける。

「えー。いいのかなぁ、聞かなくて…」
「そうだよ、濱野のために来たんだよ、私たち」
 あー、もう、しつこい。放っておいて欲しい。

「ん、んん」
 咳払いが聞こえた。
「そこ、私の席なんだけど。どいて貰える」
 アーちゃんが来た。助かった。
「あっ、奥寺さん。私たち、濱野さんに大事な話があったの」
「ふーん。でも、もうすぐ授業だから、どいてくれる」
「でも、濱野さんにとって、とっても大事な話なのよ。彩愛ちゃん」
「あー。私、あなた達と親しくなった覚えないから、下の名前で呼ばないでくれる。
それと、ど・い・て」

 アーちゃんのお蔭で、虎口を脱することができた。
 アーちゃん。奥寺彩愛《あやめ》。
 私の中学時代からの仲良し。
 この町に古くからある名家の出だ。
 そのせいなのか、気が強くて、男子とも平気で渡り合える。
 だから、あの嫌な二人組なんか、簡単に追っ払ってくれた。
 ほんと、頼りになる。