「濱野さんが、思い出してくれて良かったよ。実は、頼みたい事があるんだ」
 暫くたってから、三笠君が私の耳元で囁く。
「なに? 私、三笠君の頼みだったら、何でもします」
 涙を拭きながら答える。

「ありがとう。じゃあ、僕と一緒にネコモリサマの所に行って欲しい」
「それは構わないけど…。なんで、もう一度ネコモリサマの所に…?」
 うーん、それは…。と、三笠君が恥ずかしそうに頭を掻きはじめる。
「僕も時間が戻った直後は、記憶が戻って無かったんだよ。それで、ちょっとヘマを
してしまったんだ」

 ヘマ? なんの事を言ってるんだ?
「記憶が戻ってたら、ネコモリサマに対して、もう少し上手く立ち回れたんだけど、
本当、失敗した」
「えーっ? 何の事を言ってるの? さっぱり分からないよ」

「ネコモリサマを助けたのは、僕って事になってるだろ。それで、ネコモリサマが、
今朝早くに僕の所にやって来たんだ」
「ふんふん、それで?」
「ネコモリサマから恩返しの話をされたんだけど。その時、恩返しを辞退するとか、
違う願いを言えば良かったんだけど…」

「えっ? いったい、何をお願いしたの」
 そこで、三笠君は大きな溜息を吐き出し、私に衝撃の事実を告げたる。
「僕に妹がいる事は言ったろ。それで、昨日その妹とつまらない事で喧嘩したんだ。
そして、今朝、目が覚めたら…」
「目が覚めたら?」
「妹が……、猫になってた」

―おしまい―