お母さんと翠は暫くの間、一塊になっていたが、やがてゆっくりと体を離す。
「翠。聞かせてちょうだい。なんで家出なんかしたの、みんなを散々心配させて」
 いけない。お母さん、翠が見つかったんで、お怒りモードのスイッチが入った。
 私は、慌てて二人の間に割って入る。
「お母さん! 翠は悪くないの。私が翠に酷い事を言ったの。翠はそれがショックで
家を出たの。だから、悪いのは私。翠を叱るなら、私を叱って下さい」
 すると、直ぐさま翠が私とお母さんの間に割って入る。
「お姉ちゃんは悪くない。お姉ちゃんを傷つける事を言った私が悪いの。そのうえ、
家出までして。悪いのは私。だから私を叱って」
「ううん。翠は悪くない。みんな、わたしのせい」
「ううん。お姉ちゃんは悪くない。私が悪いの」

 私と翠のやり取りを見ていたお母さんが、溜息を漏らす。
「あなたたち。そんなに仲がいいなら、もう喧嘩しない。翠も家出なんかしないの」
 母娘三人がにらめっこのように顔を付き合わせる。
 その様子が自分達で可笑しくなって、笑いが込み上げて来た。
「とにかく、お家に帰りましょう。皆、朝ごはんがまだだから」
 という話しに決まった。

「あの。こちらの方は」
 私達の様子を辛抱強く見守っていた三笠君の存在に、お母さんも漸く気付いた。
「クラスメートの三笠君。翠を見つけて、ここまで送ってくれたの」
「それは、ありがとうございます。何と御礼を言って良いやら」
「いえ、どういたしまして」
 と、二人でお辞儀を繰り返した。
 何度かの社交辞令を繰り返したのち、私達親子は家に帰る事になった。
 私達は三笠君に頭を下げ、公園の出口に向かって歩き出す。
 私も三笠君に会釈して、お母さん達に続く。