今、翠と私は、ベンチに腰掛けてロールパンを頬張っている。

 ―翠がお腹を空かしているかもしれない―

 そう言って、お母さんが持たせてくれたパンだ。
 心配している両親には申し訳ないけど、すっかり仲直りした私達は、ちょっとした
遠足気分で朝ご飯を楽しんでいる。
 さっき、翠が見つかった事をお母さん達に連絡した。もうすぐ両親がここにやって
来るだろう。そうしたら、翠も私もこってりと油を搾られるに違いない。
 それまでのつかの間の平和だ。

 私達だけで食事するのは気が引けるので、三笠君にもお裾分けしようとしたけど、
僕は食べてきたからと遠慮された。
 代わりに、牛乳を分けてほしいと言われたので、牛乳パックを手渡した。
 そうしたら、掌で皿を作った上に牛乳を垂らし、アカネという猫に飲ませている。
 三笠君、相当の猫好きだな。
 アカネって猫も、ほっそりして姿態で、顔立ちも可愛いらしい。
 見ているだけで微笑ましくなって来る。
 ああ、私があの猫だったら良いのに…。などと埒もない事を考える。

 タタタタタタ。
 そうこうするうちに、公園の入り口から両親が駆け込んできた。
 翠の顔に緊張の色が表れる。翠が体を固くしているのが分かる。
「翠、翠…」
 お母さんがオロオロしながら駆け寄ってくる。
「お母さん…」
 翠がベンチから立ち上がる。
 それと同時に、お母さんが翠を抱きすくめる。
「翠…。良かった…。無事で…」
 続いて、お父さんもやって来て、ひしと抱き合う翠とお母さんを見つめている。