手筈は決まった。
 私は二階の自室に取って返すと、走り回れるように軽快な服に着替える。
 急いで一階に戻り、玄関に向かう。
「美寿穂、待ちなさい。これ、持ってって」
 お母さんに呼び止められ、トートバックを渡された。
「何?」と問うと
「あなた、朝ご飯食べてないでしょ。それに、翠も食事した形跡がないし。もしもの
時はこれを食べなさい」
 トートバッグの中を検めると、袋詰めロールパンとパック入り牛乳が入っていた。
 何て、手回しが良いんだ。お母さん。

「じゃあ、行ってくる」
 靴を履いて玄関を出る。
「探すのに夢中で怪我したりしないでね。車にも注意するのよ」
「分かった!」と大声で返事をして玄関を飛び出した。
 大急ぎで、駅の方角へ走る。

 走りながら、様々なマイナスのイメージが頭の中に涌いてくる。
 翠が見つからなかったどうしよう。
 泣きながら歩いてて、交通事故にあったりしていないだろうか。
 騙されて誘拐されたりしていないだろうか。
 まさかとは思うけど、命を粗末にするような真似をしていないだろうか。

 想像するだけで、目の前が暗くなる。
 それもこれも、みんな私が悪いんだ。
 自分の心にのしかかった不安を、翠に投げ付けた。
 自分の力で解決すべきだったのに。
「翠。ごめんね。ごめんね」
 涙で視界がくもってくる。