餌入れはダイニングに。猫のトイレは廊下のはずれに。
 お母さんについて、一つ一つ見て回る。
 さっきは気が付かなかったが、玄関には猫のキャリーバッグもおいてある。

 全部、見覚えがある気がしてきた。

 ダイニングの椅子に座り、心を落ち着かせて考える。
 私、何をあんなに焦っていたんだっけ?

 ミドリがいなくなったから?
 それだけじゃ、ないような気もするんだけど。
 …思い出せない。

 お母さんが私の肩に手をおいて
「落ち着いた?」
 と尋ねる。

「う、うん…」
 と曖昧に答える。
 自分でも、何に対して、あんなに駆り立てられていたのか、思い出せない。

 リビングを振り返ってみると、お父さんは相変わらず新聞を読んでいる。
 その向こうには、見慣れたミドリの寝床がある。
 いつもと変わらない風景だ。
 私は、一体、何を不安に思っていたのだろう。