転げるように一階に下りる。
 玄関の様子を確かめる。
 翠が一番気に入っているバスケシューズが無い。
 いよいよ本当に家出だ。
 ダイニングキッチンに駆け込む。
 ちょうど、お母さんが朝食の準備中だった。
「おはよう。どうしたの? 朝から、慌て…」
 その言葉の終わる前に、ひしと母の腕に縋り付く。

「大変! 翠が家出した!」
 え…?
 怪訝な顔で私を見つめる母に、翠が残していったメモを見せる。
 母の顔色が変わる。
「昨日の夜、翠が家を出るって言ってきたの。私、その時、あなたなんて早く居なく
なってって言っちゃったの。私、一体どうしよう」
「とにかく、落ち着きなさい。翠は部屋に居ないのね?」
「リュックが無くなってて、他にも翠が好きだった物が幾つか無くなっている。靴も
無いし…」
「じゃあ、本当に…」

 どうした、どうした。
 私と母の只ならぬ雰囲気を感じたのか、リビングからお父さんがやってきた。
 お母さんが翠のメモを手渡す。
 メモに目を通したお父さんが絶句する。
「とにかく、翠の立ち回りそうな所を手分けして捜しましょう」
 最初に落ち着きを取り戻した母が、指示を出す。
「お母さん。翠は、咲穂里姉ちゃんのとこに行く気がじゃないかな」
「そうね。それが、一番ありそうね。行くとしたら……電車」
「じゃあ、私は駅の方を捜してくる」
「お願いね。咲穂里ちゃんには私から連絡しておく。それから、私はアウトレットの
方を探してみる。あそこからは、長距離バスが出てるから」
「分かった」「あの……。俺は何を……」
 お父さんがオロオロしている。
「あなたはここに居て。連絡係が必要。それと、一時間経って翠が見つからなかった
場合は、警察と学校に連絡して」
「うむ。分かった」
「お父さん。もしも、翠が戻ってきたら、引き留めておいて。私が凄く反省してる、
謝ってたって伝えて!」