はっ!
 あることに気がついて、急いで三笠君から体を離す。
「ごめんなさい。あんまり、嬉しくって。三笠君。彼女さんが居るのに、こんなこと
して迷惑だったですよね」
 と慌てて言い繕う。
「迷惑なんかじゃないさ。それに、僕に彼女なんかいないよ」
「えっ? でも、アーちゃんは、三笠君が女の子と手を繋いでいる処を見たって…」
「それ、妹だよ。一昨日は買い物につきあわされてたんだ」
「えっ! そ、そうなんですか?!」
「丁度、そこに牟田口さんが来たんだ。あの人、酷く噂好きだろ。それで、身を隠す
素振りをしたら、それに気づいた妹が急に僕の手をとって、恋人繋ぎを始めたんだ。
僕の妹は、すっごく悪戯好きなんだよ」
「そうなんですか……」
「それを、牟田口さんに見咎められた。そして、昨日、君が牟田口さん達に絡まれて
から様子が変わった。きっと妙な噂を吹き込まれたのに違いないと思って、弁明する
機会を伺ってたんだ」
 そうか、三笠君が私の後をついて来たのは、そういう理由だったんだ。
 あれっ、でも待って。それって、三笠君が私の事を気にしてくれてるって事?
「濱野さん。君はさっき、自分の気持ちを僕に伝えてくれた。だから今度は僕の番」
 三笠君が急に真剣な顔になる。
 何だろう? この高揚感覚は。何か、とっても素敵な事が始まるような気がする。
「濱野さん。ずっと前から、君の事が好きだった。僕と、付き合って下さい」

 ああ、夢なのか、夢なのか、夢なのか。
 こんな夢のような事が本当にあるなんて。
 また、涙が出てきた。
 両方の掌で顔を被う。顔を上げていられない。
「濱野さん?」
 三笠君が私の答えを待っている。
 うん、うん。
 泣きながら頷いてみせる。
「ありがとう」
 三笠君が優しく私を抱きしめる。私は三笠君の胸の中で暖かい涙を流し続ける。
 ああ、夢なら覚めないでほしい。この夢が永遠に続いてほしい。