えっ!?
 不思議な映像が目に飛び込んできた。
 周りの人や車が、ビデオの早送りの様に高速で動いている。
 うわっ!? 
 通行人が私にぶつかった。思わず目をつぶる。
 しかし、体に何の衝撃も感じない。
 目を開ける。早送りの人々が次々と私の体をすり抜けていく。
 さらに、私を取り巻く早送りの風景が、段々と色あせてくる。
 遠くの空や建物は、既に色が消えて白い輪郭だけが残っている。
「僕たちは、時間の(はざま)に居るんだよ、きっと」
「どういうこと?」
「僕たちは歴史を書き換えたんだ」
「歴史を……、書き換えた?」
「そう。翠ちゃんが猫になったのは、濱野さんがネコモリサマを助けたことが発端。
でも、今のでネコモリサマを助けたのは、僕って事になった」
「そうか! だから、ネコモリサマは私の所に恩返しには来ない。私が翠を猫にする
願いをすることもない」
「そう。これで元通り、翠ちゃんは人間に戻る。てか、何も起こらない事になる」

「ありがとう! 三笠君」
 私は、思わず三笠君に抱き着いた。
「ありがとう、三笠君のお陰で、翠は人間に戻れる。ありがとう、ありがとう…」
 感謝の言葉が途中から涙声になる。
 そんな私を三笠君が優しく抱きしめてくれている。
 止めようとしても、涙が流れ続ける。
 それは、なんとも心地よい、暖かな涙だった。