ちょっと間が開いて、
「濱野さんは、何もしないでいて欲しい」
「何もしない? それって、どういう意味ですか」
「うーん。僕の考えが正しければ、濱野さんは何もしない方が良いし、何も知らない
方が良い。そうでないと、僕の考えた方法は成立しないんだ」
 何もしないのが正しい方法って事なの? 一体どういう事?
「不思議に思うかも知れないけど、僕を信じて言う通りにしてほしい」
「分かった。私、三笠君を信じる」

「ありがとう。さあ、そろそろ時間だ、飛び込む用意をして」
 そう言いながら、三笠君が私の手を握る。
「あっ! 翠は? 翠も連れて行かないと」
「翠ちゃんは、あの場に居なかったから、連れていけない。大丈夫だよ。これが首尾
良くいったら、翠ちゃんは君の家で人間に戻ってる」
「本とに?」
「ああ、間違いない。さあ、もう時間だ、僕の合図で飛ぶよ」
 三笠君が水鏡の中に目をこらし、間合いを量る。
「いまだ、イチ、二の、サン」
 三笠の合図とともに、私達は手をつないだまま水の流れの中にダイブした。

 私たちは、再び空に投げ出された。
 私と三笠君は、真っ白な空の中を落ちてる。
 強い風を真正面から受ける。
 目の前に広がる真っ白な風景の中に、ぼんやりと地上の輪郭が見えてくる。
 私達、あの世界に向かって飛んでいるんだ。

 世界が段々と色づいてくる。地上がズンズンと近づいてくる。
 行きかう車や、人の姿がハッキリわかる。
 もうすぐ地面だ。
 ぶつかる!!
 思わず、目をつぶった。