猫? ネコ? ねこ?
「お父さん、一体なに言ってるの? 私は、翠の話をしてるんだよ」
「だから…、ミドリだろ。猫の…」
 お父さんが、焦れたように答える。
「違う違う。妹の翠のことだよ。それに、うちに猫なんていないでしょ!!」


「お前、さっきから、何言ってんだ!? 変だぞ」
 お父さんが、怒気を含んだ声を発し、私を睨みつける。
 なんで? なんで、怒るの? 妹の事を心配するのが、そんなに変?
 また、涙が零れ落ちる。
 お母さんが、お父さんの怒気から私を守るように抱きしめ、
「お父さん。そんな、怒らないの」
 といって、私の髪を優しく梳る。

「どうしたの? 美寿穂。怖い夢でも見たの?」
 夢?
 夢ならどんなに良かったろう。
 でも、翠が家を出たのは本当だ。

「ちょっと、水でも飲んで、落ち着きなさい」
 お母さんに促されて椅子に座り、コップに注がれた水を飲み干す。

「美寿穂。夢と現実がゴッチャになってない? あなたは一人娘で、妹は居ないの。
それに、ミドリは猫のことだし」