「濱野さん。辺りの様子がおかしい。何かあったんじゃないか?」
 三笠君が、不安げな顔で小走りして来る。
 私は急いで顔をそむけ、気づかれぬように泪をぬぐう。
「急に風が止んで、遠くの景色が無くなってる。ネコモリサマも見当たらない」
「…そ、そうだね。どこ…行ったんだ…ろう」

 ん? と、私の反応を訝る三笠君。
 背を向けていても、三笠君が私の挙動を不審がっているのが分る。
「どうしたの。濱野さん」
「な、何でもないよ…」と答えてみるが、声が上ずってしまう。
「何でもなくないよ! 濱野さん、様子が変だ」
 三笠君が私の顔の前に回り込む。
「何でもないったら!」私は強く言って、三笠君から顔を背ける。
 三笠君が私の両肩を掴んで、私の正面に立つ。
 私の泪を見て三笠君が驚く。
「泣いてるじゃないか。何があったの」
「………」
「…話して…くれないかい?」三笠君の優しい瞳が私を見つめる。

 ああ、三笠君のことを考えるのを完全に忘れていた。
 三笠君のお陰で此処まで来れた。三笠君がいたネコモリサマにも会えた。
 それなのに、私はちゃんと御礼を言っていない。私の思いも…伝えていない。
 もう、二度と会えないというのに…。