うむ。
 私の返事を聞いて、ネコモリサマが空中部屋に跳びあがる。
 ネコモリサマが、部屋の中のガラスパイプに、前足でタッチして廻る。
 タッチされたガラスパイプがグニャグニャと動き出す。
 それぞれのパイプは、元の接続先から離れ、伸縮屈折を繰り返しながら、それぞれ
新たな接続先へと繋がっていく。
 部屋の中の光の明滅が早くなる。部屋全体が唸り始めたように聞こえる。
 カーテンが閉まるように、仕切りが閉じて空中部屋が見えなくなった。
 部屋の唸り音だけが、微かに聞こえる。

 エアコンのスイッチを切ったように、急に風が凪いだ。
 辺りを見渡すと、遠くの景色の輪郭が段々と消えていくのが分る。
 さっき、隠れ家の水の流れの中に落ちたときの光景と逆だ。
 きっと、これから世界が繋ぎ変わろうとしているんだろう。

 私の足元でじゃれ遊んでいた翠を抱き上げる。
「良かったね、翠。もうすぐ、人間に戻れるよ」
 翠に頬ずりする。
「お姉ちゃんとは、これでお別れだよ。寂しくなるかも知れないけど、お母さん達を
大切にしてね」
 私の頬を涙が伝う。
「もしも翠が、猫になった私を見つけたら、飼ってくれると嬉しいな。そうすれば、
また少しの間だけ、家族でいられるね…」
 最後に、人間の翠を抱きしめられれば良かった。それだけが心残りだ。
「翠。大好きだよ。元気でね」
 翠を抱きしめると、翠が悲しそうな声で鳴いた。