翠が私の妹である世界はなくなった。もう、翠を人間に戻す事は出来ない。
 絶望感に襲われる。
 浅はかな一言のために、私は妹の人生を粉々に壊してしまった。
 翠と過ごした何気ないあの日常が、限りない分岐の果てに巡り合った、掛け替えの
ない一瞬であったことを、私は今になって理解した。
「ごめんね。ごめんね。翠。お姉ちゃんが…お姉ちゃんが馬鹿だった」
 涙が流れはじめた。
 泣いたから何かが解決するわけでもない。けれど、溢れ泪を留める事が出来ない。

 三笠君が隣に腰を降ろして、私の肩を抱く。
「心配しないで…。皆で考えれば、きっと、解決策が在るはずだ」
 うん、うん。と頷いてみせる。
 三笠君、なんて優しくて、そして強いんだ。
 こんな状況になっても、私を励ましてくれる。
 でも、それが私を安心させるための方便であることを、私は理解している。
 もう、翠を人間に戻せない。翠が私の妹であった世界はなくなったのだから。

 翠と過ごした日々が、走馬灯のように頭の中を駆けめぐる。
 赤ちゃんの翠と初めて会った日のこと。おっかなビックリ翠を抱いた日のこと。
 私の顔を見て笑った翠の顔。スヤスヤと眠る翠の顔。
 ヨチヨチ歩きの翠。私をお姉ちゃんと呼んでくれた翠。
 翠と一緒に通った小学校。翠と一緒に遊んだ公園。全ての思い出が美しい。
 だけど、その思い出はもうすぐ消えてしまう。全てが、無かったことになる。
 私の愚かな一言が原因で……。