今、三笠君と私は、ネコモリサマの隠れ家にいる。
 初回は見つけるのに苦労したが、一度入り方が解ってしまえば、二度めは簡単だ。
 三笠君は、二度にわたって自転車で私をここまで運んでくれた。
 おかげで汗だくだ。
 ごめんなさい。そして、ありがとう。
 あなたがいなかったら、自分独りで此処まで出来たかどうか分からない。

「ネコモリサマ、いないな。また、雲隠れかな」
 三笠くんが呟く。
 そうなのだ、隠れ家の中にネコモリサマの姿は見当たらない。
 隠れるのが好きなのか、それとも私達に意地悪をしているのか?

「ネコモリサマー、ネコモリサマァー」
 二人して何度その名を呼んでも、一向に姿を現さない。
「変だなぁ。本当に留守なのかなぁ?」
 色のない景色の中を、風が走って行く。
 殺風景とは、正にこのことで、妙に寒々しい気持ちになる。

 ゴソゴソと私の腕のなかで翠がうごめく。
 また別世界に落ちたりしないように、私はずっと翠を胸の前に抱きかかえている。
 ゴソゴソ。と翠が再び身悶える。
「じっとしてて、翠。また、水に落ちて他の世界に行っちゃうよ」
 とその言葉も終わらぬうちに、翠は私の胸から地面に飛び降りた。
「駄目だったら…」
 私の言うことを無視して、翠は地面の臭いをかぎながらズンズン歩いて行く。
 何か様子が変だと察した私は、三笠君と一緒に翠の後に続く。