「部屋って、寝床のことか?」
 お父さんが場違いな問いを発する。
「ベッドだけじゃない。勉強机も、服も、みんな無くなってる」
 私はお母さんの胸に埋めた顔を上げ、お父さんを睨み返す。

 お父さんは、私の凝視の意味が理解できないような顔付きで
「ミドリの寝床ならそこにあるだろ」
 と言って、視線をリビングの隅の方に向けた。
 そこには、直径40センチばかりの、籐で編んだ丸い籠があり、中にはクッション
が入れられている。
「それに、靴がどうの、服がどうの言ってるけど。最初から無いだろ、そんなもの」
「えー!? どういうこと」
 お父さんが、訳が分からないことを言い出したので、私は大声で聞き返す。
 お父さんが、私の声にたじろぎながら、答える。
「だって、ミドリは猫なんだから」