ミャーオ。ミャーオ。ミャーオ。
 猫の鳴き騒ぐ声が聞こえた。
 翠の声?
 顔を上げると、父娘が跳ね回る猫キャリーと格闘している様子が目に入る。多分、
中で翠が暴れているんだ。

 どうしたの、ミドリ。
 女の子が猫キャリーの口を開けて中を覗き込む。
 その瞬間、翠が猫キャリーを飛び出し、一直線に走って来て私の胸に飛び込んだ。

「翠! 翠! ありがとう、戻ってきてくれたんだね」
 涙で濡れた頬で、翠に頬ずりする。翠も顔をこすりつけてくる。
「もう離さないよ。決して離したりしないよ」
 嗚咽とともに、同じ言葉を幾度も幾度も繰り返した。

 女の子は翠を追いかけてきたが、私と翠の様子を目の当たりにして立ち尽くす。
 女の子の目に見る間に涙が貯まる。
 私の軽はずみな言動が元で、こんな幼気な子に辛いおもいをさせている。
 胸が痛くなる。
 私は女の子の前にしゃがみ込み、
「ごめんね。ごめんね」と繰り返した。