「どうやら、君の猫とは違うようだね」
 女の子の父親が冷たい言葉をなげてくる。
「いえ、あの…。間違いないです。この子は翠なんです」
 懸命に弁明する。
「そう言われてねえ…。何か証拠とか持ってないの? 写真とか?」
 写真。そんな物が有るはずがなかった。翠が猫になったのは今朝の出来事で、その
事に私が気付く前に、翠は出て行ってしまったのだから。
 返す言葉が見つからない。

 女の子の父親が憐れむような顔で私を見る。
「見ての通りで、うちの娘もこの猫を気に入ってるんだ。申し訳ないが、確証無しに
猫を渡すわけにはいかないなぁ」
 そう言い残すと、父娘《おやこ》は私に背を向けて歩き出す。
 私は何も言えずに立ち尽くす。
 父娘は、ベンチに置いてあった猫のキャリーバッグに翠を押し込むと、振り返る事
なく、公園の出口に向かって歩きだす。

 ああ、どうしたらいいの。
 三笠君が寄ってきて、そっと私の肩に手を置く。
 助けを求めるように三笠君を仰ぎ見るが、三笠君も悲し気な顔で私を見つめる。
 父娘の姿が遠ざかる。
 翠が行ってしまう。
 私の胸に絶望が降りかかる。
 涙が出てきた。
 私は、その場にしゃがみ込み、声を出して泣き始めた。