タタタタタ。
 幼稚園児くらいの女の子が走って来て、翠を抱き上げる。
「ミドリ。かくれんぼは、お終いだよ。もう、お家へ帰ろう」
 そう言いながら、女の子は翠にほお擦りする。
 翠は嫌がる様子も見せずに、女の子に抱かれている。

 えっ? 人違い、いや、猫違いだった?
 三笠君と顔を見合わせる。
 その間に、女の子は翠を抱いたまま、私と反対方向に歩き出す。

「ま、待って!」
 走っていって女の子を呼び止める。
 振り返った女の子が怪訝そうな顔で私を見つめる。
 私は女の子の前にしゃがみ込み、出来るだけ、落ち着いた口調で
「その猫、見せて貰えるかな」と尋ねてみる。
 女の子の子が警戒心をあらわにするが、それを無視して、翠の様子をあらためる。
 一点の曇りも無い純白の肢体。長くエレガントな尾。グリーンの入った綺麗な瞳。
 間違いない。この猫は翠だ。

「あの。この猫、私の猫なの。だから、その…返して…、貰えるかな」
 これ以上ない丁寧さで、女の子に語りかける。
 女の子が泣き出しそうな顔で後退りする。
「あの…」と手を伸ばすと、女の子は翠を抱えたまま逃げ出した。