そうだ。思い出した。私の不注意で、三笠君とぶつかったんだっけ。
 昨日は自動車に轢かれそうなところを見られるし、何てドジなんだ、私。
「ごめんなさい、ありがとうございました」
 恥ずかしさで、いたたまれなくなり、お礼もそこそこに、その場から逃げ出そうと
して立ち上がる。
「ちょっと待って」
 三笠君に手首を掴まれた。
「濱野さん、何か大事なものを探してるんじゃなかったっけ?」

 何か…大事なもの…。
 三笠君の言葉が私の記憶を揺さぶった。
 そうだ。私は、何かとても大切なものを探していた。
 その事に心を奪われていて、三笠と衝突したんだ。
 何だっけ、何を捜していたんだっけ。
 とても大切なもの。決して忘れてはいけないもの。
 でも、思い出せない。
 自分の心が自分のものでないような不思議な感じがする。

 三笠君の隣に腰を下ろし、コメカミに手を当て、記憶を掘り起こそうと試みる。
「どうしたの? 傷がまだ痛む?」
 三笠君が心配顔で尋ねてくる。
「大丈夫。この傷絆のお陰で楽になった」
 話の流れで膝小僧に手を伸ばしかけたとき、スカートのポケットに何か入っている
事に気がついた。
 取り出してみると、カワセミの絵が描かれた缶バッチだった。
 これは私のコレクションの一つだ。いつもは自室の壁に飾ってある。
 何故、こんな物を持って外出したんだっけ?