非国民、という言葉にすぐ隣を通り過ぎていく大人たちが反応して、じろじろとこっちを見る。頬にカアッと、火かき棒を押し当てられたような熱を感じた。今にも鉄砲玉の勢いで飛び出していきそうな辰雄の肩を抱いて止めるけど、六歳児の必死の力は意外なほど強い。

「うちはあんちゃんが戦争に行っとるけ、非国民じゃのうて。馬鹿にする奴らは許さんぞ。しごうしたる」

「おぉ、やれるならやってみろや」

 隆太の後ろで鼻の穴を膨らませた汚らしい悪ガキがふたり、騒ぎ出す。辰雄の顔が真っ赤になり、三千代がぽろぽろ涙をこぼした。

「非国民なんざ、ちっとも怖くねぇや」

「おどれなんざひとひねりじゃ」

「だからうちは非国民じゃのうけ!」

「辰雄、危ない!」

 木炭バスが煙をまき散らしながら近づいてきて、私は急いで辰雄と三千代の手を引き、道の端へ走る。ズブズブズ、と嫌な音を立ててバスが走り去っていった後には、道の上に潰れたジャガイモが散らばっていた。あぁ、と三千代が泣き声を出す。

「おどれら、何してくれんじゃ!!」

 怒りが頂点に達した辰雄が隆太たちに飛びかかろうとする。力が緩んでいた私の手は辰雄を離してしまう。どうしよう、と思った次の瞬間、辰雄を押しのけるようにして母さんが飛び出してきた。

「子どもの喧嘩は、もう終わりじゃ。大事な芋をこんなにされて、黙っておれるか」

 母さんの手がわなわな震えている。隆太たちは大人の迫力にほんの少しだけおののいたけれど、やがてフンと鼻を鳴らす。

「あんたら、謝りんさい。うちのイモに手を出した罪は重いけ」
「ハァ、知るか! おどれらが非国民なんが悪いんじゃ」