その女は子供の頃から、靴に泣かされてきた。
足の幅が広く、標準型で作られた普通にどこでも売ってる靴だと、自分本来のサイズでもきつくて履けない。
だからいつも自分の足のサイズよりも大きめを履いていた。
しかし、足にぴったりと合ってないので、よく踵に靴ずれや指などに水ぶくれを起こしていた。
少しでもそれを防ごうと、絆創膏を貼ったり、踵を潰したり、石鹸を塗ったりして、工夫して履いていた。
しかし、足のサイズが24.5cmまで大きくなったとき、女はさらに苦労した。
女性用の靴で、それ以上のサイズを置いている店が少なく、女は大きめの靴を買おうにも簡単に見つけられないでいた。
やっと見つけた大きいサイズ専門の靴屋は、他所では取り扱ってないと、靴屋だけに足下を見て、普通の靴より値段を高くしていた。
女はいつも自分の好みのデザインの靴が買えず、サイズを探すのにも苦労し、かろうじて見つけても費用の高さに悩んだ。
そしておしゃれな服を買っても、それに合う靴が安易に見つからないので、いつも簡素な格好になってしまっていた。
普段は、カジュアルな服を着て、スニーカーや歩きやすく作られた運動靴などを履くが、それも男性用のものを履いたりしていた。
フォーマルなスーツを買った時、女はハイヒールを探すのに苦労した。
やっと見つけた、自分が履けるハイヒールは赤色だった。
奇跡的にその赤いハイヒールは、ピッタリと足に合った。
値段も高かったが、こんな靴は滅多に出会えないと、思い切って買った。
ところが、その赤いハイヒールを履いて出かけた時、スーツの色と合ってないと言われて恥ずかしい思いをした。
スーツもまたそこそこ値の張る代物だったのに、赤いハイヒールの色のせいで台無しだった。
どうして、女性用のサイズに大きいものがないのだろう。
どうして、自分に合う靴がないのだろう。
女は、自分の足の大きさと形を呪った。
だが、女が旅行でアメリカにいった時、転機が起こった。
デパートの中にある靴屋に入った時、品数もさることながら、サイズが豊富にあったからだった。
ここでは自分の足のサイズの靴がより取り見取りだった。
「May I help you?」
若い男性の店員が、にこやかに女に微笑みかける。
買い物するくらいの英語なら女にも問題はなかった。
靴を探していると言えば、店員はさらににこやかになって、女をソファーへと誘導する。
デパートの中の店とあって、その一帯は広い空間で解放され、おしゃれに展示されて気品があった。
所々に座り心地のいい腰を掛ける場所がいくつもあった。
その中の一つに、座れと言われたので、女は戸惑いながら腰掛けた。
店員は足を測る器具を持ち出して、女の足元に置いた
女は片方の靴を脱ぎ、その器具に足を乗せる。
少し、店員の手が自分の足に触れ、ドキッとする。
店員は慣れてるとばかりに、テキパキとサイズを測り、何かを言った。
良くわからないまま、適当に女が返事をすれば、店員はまるで家来のように「かしこまりました」と言っているような気がした。
一度奥に引っ込んだが、たくさんの箱を抱えて再び女の前に現れた。
箱を開け、片方の靴を取り出して、両手で履きやすいように幅を広げて、女の足に履かせる。
シンデレラのガラスの靴を履かされているように、女はその行為にのぼせ上ってしまう。
一つ試着するたびに、店員は様子を窺い、女はその店員の手に任されるまま、色んな靴を試していく。
自分で探さなくても、次から次へと靴を持ってきた。
店員の洗練されたプロフェッショナルな態度は世話を焼く執事のようでもあり、甘く囁く王子様のようでもあった。
靴選びが至福の時に変わる。
かつてこんな楽しい靴選びがあっただろうか。
それも全てが自分の足にぴったりと合い、デザインがどれも素敵。
値段も、お手頃価格の物ばかりで、予算も心配することはない。
そしてその店員が、亜麻色の髪にブルーの目をしている。
映画の世界にいるようだった。
やっと気にいるデザインのものが見つかり、女はそれを購入したいと言った。
店員も見つかった事を一緒に喜んでくれた。
その場でキャッシュカードを渡し、支払いの手続きをする。
女は最後までソファーに座ったまま買い物を済ませた。
店員が戻ってきて、クレジットカードを返しながらサインを求める。
女は緊張しながら、渡されたペンを手に取ってサインした。
手続きが全て終わると、店のロゴが入った紙袋を恭しくレシートと共に女に渡した。
店員から丁寧にお礼を言われるも、女の方が大変世話になり、こんなにもヘヴン状態にお姫様になったような買い物をしたことがない。
しかも、今まで買うのに苦労していた靴で──。
女は店員にありったけの感謝の気持ちを込めてお礼をいう。
手にした紙袋を抱いて、女は暫しふわふわとして歩いていた。
スーツケースに箱ごと靴を詰め、日本で履くのを楽しみにする。
帰りの飛行機の中でも靴屋の店員を思っては、ニヤニヤとしてしまっていた。
そうして、日本について靴の箱を開けてびっくりした。
そこにはどちらも右足用の靴が一足として入っていた。
「あほか、あの店員は!」
女は思わず罵ってしまった。
どちらも右足用で履けない靴が虚しく目に映る。
やっぱり靴にはいつも泣かされて──
足の幅が広く、標準型で作られた普通にどこでも売ってる靴だと、自分本来のサイズでもきつくて履けない。
だからいつも自分の足のサイズよりも大きめを履いていた。
しかし、足にぴったりと合ってないので、よく踵に靴ずれや指などに水ぶくれを起こしていた。
少しでもそれを防ごうと、絆創膏を貼ったり、踵を潰したり、石鹸を塗ったりして、工夫して履いていた。
しかし、足のサイズが24.5cmまで大きくなったとき、女はさらに苦労した。
女性用の靴で、それ以上のサイズを置いている店が少なく、女は大きめの靴を買おうにも簡単に見つけられないでいた。
やっと見つけた大きいサイズ専門の靴屋は、他所では取り扱ってないと、靴屋だけに足下を見て、普通の靴より値段を高くしていた。
女はいつも自分の好みのデザインの靴が買えず、サイズを探すのにも苦労し、かろうじて見つけても費用の高さに悩んだ。
そしておしゃれな服を買っても、それに合う靴が安易に見つからないので、いつも簡素な格好になってしまっていた。
普段は、カジュアルな服を着て、スニーカーや歩きやすく作られた運動靴などを履くが、それも男性用のものを履いたりしていた。
フォーマルなスーツを買った時、女はハイヒールを探すのに苦労した。
やっと見つけた、自分が履けるハイヒールは赤色だった。
奇跡的にその赤いハイヒールは、ピッタリと足に合った。
値段も高かったが、こんな靴は滅多に出会えないと、思い切って買った。
ところが、その赤いハイヒールを履いて出かけた時、スーツの色と合ってないと言われて恥ずかしい思いをした。
スーツもまたそこそこ値の張る代物だったのに、赤いハイヒールの色のせいで台無しだった。
どうして、女性用のサイズに大きいものがないのだろう。
どうして、自分に合う靴がないのだろう。
女は、自分の足の大きさと形を呪った。
だが、女が旅行でアメリカにいった時、転機が起こった。
デパートの中にある靴屋に入った時、品数もさることながら、サイズが豊富にあったからだった。
ここでは自分の足のサイズの靴がより取り見取りだった。
「May I help you?」
若い男性の店員が、にこやかに女に微笑みかける。
買い物するくらいの英語なら女にも問題はなかった。
靴を探していると言えば、店員はさらににこやかになって、女をソファーへと誘導する。
デパートの中の店とあって、その一帯は広い空間で解放され、おしゃれに展示されて気品があった。
所々に座り心地のいい腰を掛ける場所がいくつもあった。
その中の一つに、座れと言われたので、女は戸惑いながら腰掛けた。
店員は足を測る器具を持ち出して、女の足元に置いた
女は片方の靴を脱ぎ、その器具に足を乗せる。
少し、店員の手が自分の足に触れ、ドキッとする。
店員は慣れてるとばかりに、テキパキとサイズを測り、何かを言った。
良くわからないまま、適当に女が返事をすれば、店員はまるで家来のように「かしこまりました」と言っているような気がした。
一度奥に引っ込んだが、たくさんの箱を抱えて再び女の前に現れた。
箱を開け、片方の靴を取り出して、両手で履きやすいように幅を広げて、女の足に履かせる。
シンデレラのガラスの靴を履かされているように、女はその行為にのぼせ上ってしまう。
一つ試着するたびに、店員は様子を窺い、女はその店員の手に任されるまま、色んな靴を試していく。
自分で探さなくても、次から次へと靴を持ってきた。
店員の洗練されたプロフェッショナルな態度は世話を焼く執事のようでもあり、甘く囁く王子様のようでもあった。
靴選びが至福の時に変わる。
かつてこんな楽しい靴選びがあっただろうか。
それも全てが自分の足にぴったりと合い、デザインがどれも素敵。
値段も、お手頃価格の物ばかりで、予算も心配することはない。
そしてその店員が、亜麻色の髪にブルーの目をしている。
映画の世界にいるようだった。
やっと気にいるデザインのものが見つかり、女はそれを購入したいと言った。
店員も見つかった事を一緒に喜んでくれた。
その場でキャッシュカードを渡し、支払いの手続きをする。
女は最後までソファーに座ったまま買い物を済ませた。
店員が戻ってきて、クレジットカードを返しながらサインを求める。
女は緊張しながら、渡されたペンを手に取ってサインした。
手続きが全て終わると、店のロゴが入った紙袋を恭しくレシートと共に女に渡した。
店員から丁寧にお礼を言われるも、女の方が大変世話になり、こんなにもヘヴン状態にお姫様になったような買い物をしたことがない。
しかも、今まで買うのに苦労していた靴で──。
女は店員にありったけの感謝の気持ちを込めてお礼をいう。
手にした紙袋を抱いて、女は暫しふわふわとして歩いていた。
スーツケースに箱ごと靴を詰め、日本で履くのを楽しみにする。
帰りの飛行機の中でも靴屋の店員を思っては、ニヤニヤとしてしまっていた。
そうして、日本について靴の箱を開けてびっくりした。
そこにはどちらも右足用の靴が一足として入っていた。
「あほか、あの店員は!」
女は思わず罵ってしまった。
どちらも右足用で履けない靴が虚しく目に映る。
やっぱり靴にはいつも泣かされて──