中学に上がったばかりのその少女は、友達の書く字を見てコンプレックスを抱いた。
友達の字は中学一年生が書くには達筆過ぎた。
なんて美しい字なんだろう。
友達のノートを見るとそう思わずにはいられなかった。
その後で、自分のノートに目をやれば、自分の字に失望してしまう。
自分の字は大小そろってなくて、バランスが悪く、全体的に見るととてもきたない字だった。
なんとか工夫して、せめて可愛く見えたらと、丸っこく書いてみたりするが、やはり基本がなってないと、ごまかしはきかなかった。
字がきたない事は自分の性格も悪く思えるし、女としても恥ずかしい。
字は人柄を表すなんていう。
この字では誰からも変な目で見られてしまう。
なぜ上手く整って書けないのだろう。
字を書く度に、悔しくやるせない気持ちを抱く。
友達の書くきれいな字が羨まし過ぎた。
クラスの女子の字は様々なタイプがあるけども、どれも全体的にパッと見た感じほとんど整っていて、どれも自分よりはるかにきれいに見えた。
だけど一人だけ、自分よりひどい字を書く女の子がいた。
少しほっとしてしまうのだけど、少女はその子が嫌いだった。
なぜなら平気で人をうらぎるようなずるい性格の持ち主だったから。
やはり字は性格や人柄を表す。
きたない字は人間性にも問題があると思われても仕方がない。
そう思いこんでしまった。
嫌われる人は字も汚いという公式が、その女の子の人柄と字を見て繋がると、少女は自分もそう思われてると感じて益々落ち込んだ。
なんとかきれいに書きたい。
手の力を抜き、意識して丁寧に書くも、それだと時間が掛かって、授業中、黒板に書かれたことをノートに写す時間がかなりかかってしまう。
これでは間に合わない。
悩みながら少女は黒板に書かれたことを、汚い字と思いながら素早くせっせと写した。
一時間目に国語がある日の朝、その授業の宿題のプリントを授業が始まる前に提出しなければならなかった。
数人の男子たちは、宿題をし忘れて慌てている。
二時間目の数学も同じように宿題のプリントを提出しなければならなかったので、それもやってない男子はもっと焦っていた。
「頼む、これやってくれ」
クラスでも人気者の男の子が少女の元へ来て、国語のプリントを渡した。
「私の答えは間違ってるよ」
「とにかく白紙よりはいい」
「でも、私、字がきたないよ」
「そんなの構わない。数学もやってないから、時間がないんだ。とにかくこれ頼む」
男の子は半ば押し付ける形で、女の子に自分のプリントを渡した。
迷惑でありながらも、頼まれた男の子に好意を少しばかり抱いていた女の子は、仕方がないと、自分のプリントと照らし合わせて男の子のプリントに書きこんだ。
それをやってるのは自分だけではなく、何人かの女子生徒たちも頼まれて書きこんでいた。
人気者の男の子は自分に頼んできた。
少し優越感を感じてしまう。
でもチャイムの音が鳴るや否や、そんな気分に浸ってられない。
とにかく答えを所々埋めるだけでいいだろう。
少女は急いでそれを仕上げた。
なんとか先生が来る前に、少女はギリギリで男の子にプリントを渡せた。
男の子は丁寧に礼を言ってくれた。
その笑顔が自分に向けられていると思うと、ちょっぴり嬉しかった。
そして一時間目が始まり、先生がやって来た。
少し神経質そうなヒステリー気味の中年のおばさんだ。
早速宿題のプリントを提出し、それらが教卓に集められると、先生はメガネの奥から鋭い目を光らせて、ざっとそれらに目を通した。
「人にやってもらって、自分で書いてない人がいる。字が違うじゃないの。先生はこんなのすぐに見分けられるのよ」
そうやって朝から怒りモードになり、怪しいプリントを束から抜き出して言った。
名前を呼んでは起立させ、叱る。
そして、少女に頼んだ男の子の名前も呼ばれた。
少女は、やっぱりバレたかと思ったその時だった。
「ん? あっ、これはお前の字だな。こんなに汚い字だし」
先生は男の子の名前を呼んだが、それを取り消した。
少女の席よりも斜め前の方にいた男の子は、少女に振り返って笑っている。
でもその笑い方はおかしくてたまらないのを我慢している様子だった。
それとは対照的に少女は、先生の言葉にショックを受けていた。
何せその字は自分が書いたものなのだから。
男の子が書いた字と勘違いされたとはいえ、はっきりと汚いと言われたのが相当衝撃だった。
授業が終わると、男の子はすぐさま少女の許へと一目散に駆けつけた。
少女は男の子がやってくるのを見ながらとても複雑な気分でいる。
男の子はにこにこしながら少女に近づく。
少女の前に立つと、とびっきりの笑顔をみせた。
「ありがとうな。バレないと思って君を選んだんだけど、本当に君の汚い字のお陰で助かったよ」
「…………」
とどめの言葉も添えられた。
友達の字は中学一年生が書くには達筆過ぎた。
なんて美しい字なんだろう。
友達のノートを見るとそう思わずにはいられなかった。
その後で、自分のノートに目をやれば、自分の字に失望してしまう。
自分の字は大小そろってなくて、バランスが悪く、全体的に見るととてもきたない字だった。
なんとか工夫して、せめて可愛く見えたらと、丸っこく書いてみたりするが、やはり基本がなってないと、ごまかしはきかなかった。
字がきたない事は自分の性格も悪く思えるし、女としても恥ずかしい。
字は人柄を表すなんていう。
この字では誰からも変な目で見られてしまう。
なぜ上手く整って書けないのだろう。
字を書く度に、悔しくやるせない気持ちを抱く。
友達の書くきれいな字が羨まし過ぎた。
クラスの女子の字は様々なタイプがあるけども、どれも全体的にパッと見た感じほとんど整っていて、どれも自分よりはるかにきれいに見えた。
だけど一人だけ、自分よりひどい字を書く女の子がいた。
少しほっとしてしまうのだけど、少女はその子が嫌いだった。
なぜなら平気で人をうらぎるようなずるい性格の持ち主だったから。
やはり字は性格や人柄を表す。
きたない字は人間性にも問題があると思われても仕方がない。
そう思いこんでしまった。
嫌われる人は字も汚いという公式が、その女の子の人柄と字を見て繋がると、少女は自分もそう思われてると感じて益々落ち込んだ。
なんとかきれいに書きたい。
手の力を抜き、意識して丁寧に書くも、それだと時間が掛かって、授業中、黒板に書かれたことをノートに写す時間がかなりかかってしまう。
これでは間に合わない。
悩みながら少女は黒板に書かれたことを、汚い字と思いながら素早くせっせと写した。
一時間目に国語がある日の朝、その授業の宿題のプリントを授業が始まる前に提出しなければならなかった。
数人の男子たちは、宿題をし忘れて慌てている。
二時間目の数学も同じように宿題のプリントを提出しなければならなかったので、それもやってない男子はもっと焦っていた。
「頼む、これやってくれ」
クラスでも人気者の男の子が少女の元へ来て、国語のプリントを渡した。
「私の答えは間違ってるよ」
「とにかく白紙よりはいい」
「でも、私、字がきたないよ」
「そんなの構わない。数学もやってないから、時間がないんだ。とにかくこれ頼む」
男の子は半ば押し付ける形で、女の子に自分のプリントを渡した。
迷惑でありながらも、頼まれた男の子に好意を少しばかり抱いていた女の子は、仕方がないと、自分のプリントと照らし合わせて男の子のプリントに書きこんだ。
それをやってるのは自分だけではなく、何人かの女子生徒たちも頼まれて書きこんでいた。
人気者の男の子は自分に頼んできた。
少し優越感を感じてしまう。
でもチャイムの音が鳴るや否や、そんな気分に浸ってられない。
とにかく答えを所々埋めるだけでいいだろう。
少女は急いでそれを仕上げた。
なんとか先生が来る前に、少女はギリギリで男の子にプリントを渡せた。
男の子は丁寧に礼を言ってくれた。
その笑顔が自分に向けられていると思うと、ちょっぴり嬉しかった。
そして一時間目が始まり、先生がやって来た。
少し神経質そうなヒステリー気味の中年のおばさんだ。
早速宿題のプリントを提出し、それらが教卓に集められると、先生はメガネの奥から鋭い目を光らせて、ざっとそれらに目を通した。
「人にやってもらって、自分で書いてない人がいる。字が違うじゃないの。先生はこんなのすぐに見分けられるのよ」
そうやって朝から怒りモードになり、怪しいプリントを束から抜き出して言った。
名前を呼んでは起立させ、叱る。
そして、少女に頼んだ男の子の名前も呼ばれた。
少女は、やっぱりバレたかと思ったその時だった。
「ん? あっ、これはお前の字だな。こんなに汚い字だし」
先生は男の子の名前を呼んだが、それを取り消した。
少女の席よりも斜め前の方にいた男の子は、少女に振り返って笑っている。
でもその笑い方はおかしくてたまらないのを我慢している様子だった。
それとは対照的に少女は、先生の言葉にショックを受けていた。
何せその字は自分が書いたものなのだから。
男の子が書いた字と勘違いされたとはいえ、はっきりと汚いと言われたのが相当衝撃だった。
授業が終わると、男の子はすぐさま少女の許へと一目散に駆けつけた。
少女は男の子がやってくるのを見ながらとても複雑な気分でいる。
男の子はにこにこしながら少女に近づく。
少女の前に立つと、とびっきりの笑顔をみせた。
「ありがとうな。バレないと思って君を選んだんだけど、本当に君の汚い字のお陰で助かったよ」
「…………」
とどめの言葉も添えられた。